「長野県・上田市を舞台にしたスタッフのセンスに感服!」サマーウォーズ こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)
長野県・上田市を舞台にしたスタッフのセンスに感服!
ここ何作かの宮崎監督やジブリの作品よりも、はるかに見ごたえのある内容と絵作りを見せてくれた。細田監督の作品は初見だったのだが、評判どおりの演出力に感心させられた。
何より感心したのは、長野県上田市を映画の舞台にしていたことだ。それは、上田市の歴史と街づくりを知っていないとできないことだからだ。
この作品でも言われているように、上田市は戦国時代より真田氏の居城があった街だ。豊臣秀吉が死んだあと、豊臣の勢力を一掃させたい徳川家康は、上田の真田の城を大軍を率いて攻めた。それに対し、少ない軍勢だった真田氏は知能戦に持ち込んだのである。
真田は、上田のお城へと向かう道を直線にせず、すべて直角に曲がるコーナーを入り組んだ迷路にし、さらに城の周囲にお寺や墓地を点在させて、敵に簡単に城に入り込ませないという、幾何学的な戦法で徳川の大軍を迎え撃った。そのかいがあって、少ない軍勢ながら二度にわたって徳川軍を退けることに成功したのだ。
この映画では巨大なコンピューターウイルスにひとりの数学の天才が、上田市の真田ゆかりの家で迎え撃つ、というのは、まさしく、徳川相手に知能戦を挑んだ真田そのものの姿なのだ。おそらく、上田市の歴史を知っている者たちの中には、この映画の物語に、思わず「やるなあ」と言ってしまうくらいに感動し、見入ってしまった者が多かったはずである。ひとつの街の歴史に物語を一体化させる、という、なかなかできることではないストーリーテリングのセンスの良さがあったからこそ、この作品は成功したことは疑いもないことだと思う。
さらに、この作品で感心したのは声優のキャスティングだ。主人公の数学の天才と先輩の女子高生は、一歳違いという設定だが、調べてみると、数学の天才役の神木隆之介と女子高生役の桜庭みなみは、設定どおりの一歳違いの高校生くらいの年齢のようだ。だからなのだろう。お互いに声優の経験など浅いのにもかかわらず、若い一歳違いの男女の心の機微や恋心が、セリフの話し方に素直に出ていて、それもこの作品の魅力になっていたことには驚かされた。主人公二人の関係性がこの作品の肝であるにもかかわらず、プロの声優でなく、同世代のタレントに挑戦させ、見事にはまったのも、スタッフの大ファインプレーと言うべきことだと思う。つい最近、「僕の初恋キミに捧ぐ」という映画でのキャスティング・ミスに遭遇しているだけに、アニメでありながらもキャスティングに工夫をこらしたこの作品の良さは、余計に印象的なものとなった。
本当にいい映画をつくろう、というスタッフの姿勢があれば、アニメだうと実写だろうと、観客の共感を呼べる、ということを、この作品は実証しているように思う。