劇場公開日 2009年8月8日

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「とにかくHACHIとギアの名演。泣かさせる仕草が一杯で、最後まで涙ぐむことでしょう。」HACHI 約束の犬 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0とにかくHACHIとギアの名演。泣かさせる仕草が一杯で、最後まで涙ぐむことでしょう。

2009年7月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

  とにかくHACHIの主人を待ち続けるけなげさにずっと涙があふれて仕方ありませんでした。犬や動物で安直にお涙ちょうだいという映画が多いなかで、この作品は犬登場のベストワンだフルと思いますね。

 改めていうまでもなくHACHIの元になったのは渋谷のハチ公。エンディングにもしっかり登場します。1925年5月に飼い主が急逝したのにも関わらず、1935年3月、渋谷川に架かる稲荷橋付近の路地で死亡したことまで、詳しくテロップで紹介されていました。
 改めて、実話なんだと説明されると当時のハチ公の忠犬ぶりが忍ばれて、またまた涙がほろり(:_;)、日本人として誇らしくもなりました。
 渋谷の喧騒の中、今も静かに主人を待ち続けている一匹の犬の銅像の姿。物語の終わりにこれ見せつけられますと、感動してしまいますね。

 さて、本作に思わず涙してしまうのは、ラッセ・ハルストレム監督の確かな演出によるところが大きいと思います。

 カメラは、動物ものだからといって決して可愛らしさ一本槍で描こうとしません。ひたすらウィルソン教授とHACHIの絡みを淡々と追い続け、台詞も少なめなんです。そしてボティランゲージショットやHACHI目線のカメラワークを織り交ぜて、そのときのHACHIの気持ちを的確に伝えてくれました。

 たとえば納屋に閉じ込められて、恨めしそうに母屋を覗くところ、大好きな教授の見送りに行きたいのに、家から出れなくされて、不服そうにでんぐりがえるところなど、見ているだけで、キミそうなのねとHACHIの気持ちに引きつけられてしまうのです。
 なかでも初めて教授を追いかけて駅まで行くときのHACHIの執念には驚きものです。なんと、塀の地面を前足で掘り下げ、見事に外に出てしまうのです。そのとき僅かにできた隙間に身を通し、体をクネクネする姿は、何とも可笑しかったです。

 残念ながらその後穴は堅く埋められてしまいます。でもHACHIは、扉の鍵を外したり、塀を跳び越える方法など覚えては、日々教授のお伴に出かけるのでした。

 駅前の住民たちが不思議に思ったのは、HACHIが定刻17時にはぴたりと教授のお出迎えに現れることです。
 それは教授の死後も同じだったのですね。
 教授が亡くなったあとも、ずっと駅に通うHACHIの姿を見せつけられますと、どうしようもなく涙もろくなってしまいました。HACHIが娘夫婦に引き取られて、遠く引っ越しても、家出して駅に向かおうとするのです。

 家に連れ戻されたHACHIは、出口をじっと凝視しているばかり。そのまなざしは、「ぼく行くよ」と語ってるようでした。娘のアンディはHACHIの気持ちを察して、出口の扉を開放します。
 しかし、HACHIはすぐには飛び出そうとせず、しばらくアンディに縋り付くように、その手をペロペロと舐めたのです。まるで「ありがとう」と言っているみたいで感動的でした。

 駅近くの貨車の下を住処と定めて、駅に通い続けるHACHI。そんな彼のエサの面倒を見たり、あえて干渉せず好きにさせている駅前の街の住民の暖かさもよかったです。
 新聞にも報道されて、HACHIは街の住民みんなが飼い主となっていたのでした。

 10年後老犬となったHACHIは、よぼよぼ歩きが痛々しそう。
 雪降るクリスマスの夜も、いつものように駅で教授の帰りを待ち続けていました。HACHIは次第に薄れゆく意識のなかで、夢を見ます。

 大好きな教授にじゃれついた日々。

 『ハァチィ~』という呼び声。

 その声を頼りに教授を見つけた喜び。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 この物語が教えてくれるのは、HACHIの見返りも報酬も求めない、無償の愛と信頼の美しさと温かさにあるのだと思います。明日すらも見えない不安に満ちたこの世界に生きているからこそ、見失いかけている大切なことをHACHIが教えてたのです。

 また本作では、リチャード・ギアの度はずれた犬好きさが画面から伝わってきます。幼犬時代のHACHIは無条件にカワイいのですが、HACHIに絡むギアは、まるで人間が犬にじゃれついているみたいでした。目尻が下がり目のギアがさらにニンマリしてHACHIに遊ばれているのです。
 秋田犬というのは、必要がなければ人間にサービスしない犬種。普通は、ボールなんか投げてもとってこないのだそうです。(本編では「例外」も描かれています。この「例外」には泣かされます。)
 それでもギアは、何とか覚え込ませようと、自ら四つん這いになって、ボールを口に咥える仕草をHACHIに見せるのですよ。大俳優が!
 もう芝居を通り越した、素の犬バカ状態でした。

 でもその熱演があったからそこ、HACHIを飼うことに反対であった妻のケイトが、夫の犬バカぶりを見て、HACHIを引き取りたいという電話を思わず断ってしまうシーンに、説得力が生まれました。ここもいいシーンでしたね。

 さらに、本作では秋田犬そのものと日本文化へのオマージュにあふれています。
 教授の友人には、剣道仲間のケンがいて、ケンから秋田犬の由来を知らされた教授はネットて、詳しく調べた結果、世界で一番古く人間に使えた犬種であり、武士に育てられたことで、忠義や誇りなどサムライスピリッツを持ち合わせる犬種なんだと言うことを知ります。ウィルソン教授が日本通だったため、余計にHACHIに対する愛着を募らせたのでしょう。

 ケンを演じる俳優さんは、なかなか渋い演技で魅せてくれました。なかでも、教授の墓参りの後で10年ぶりに、駅でHACHIに、ケンが日本語で語る台詞に感動しました。
 『おまえの気持ちはよく分かる。長生きしろよ。』という言い回しには、共通の友を失った義兄弟のような親愛の情に満たされたものだったのです。

 とにかく絶対泣ける映画として、八の日にはご覧になってください。

追伸
 2004年に2冊の子供向け書籍が出版された結果、アメリカの愛犬家の間で、秋田犬が人気を呼んでいそうですね。そもそもアメリカで秋田犬が知られるようになったきっかけは、ヘレン・ケラーだったようです。福祉活動のため、日本を訪問したヘレンは、秋田犬を所望したので、子犬が贈られたそうです。これが、海外に渡った秋田犬の第1号。また、ヘレンは1948年、渋谷駅のハチ公像を訪れているそうなのですね。

 また、ラストでは老犬を使ってなく、成犬を演技指導でいかにもという歩き方を演じさせたそうです見事な老犬ぶりでした。

流山の小地蔵