劇場公開日 2009年5月23日

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「美貌の、躍動」チョコレート・ファイター ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5美貌の、躍動

2011年5月25日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

笑える

楽しい

興奮

「マッハ!」などの作品で高い評価を集めているプラッチャヤー・ピンゲーオ監督が、新人女優ジージャーを主演に迎えて描く、アクション映画。

物語の流れを血眼になって追いかけることなく、その作品世界にただただ胸が躍る。目が離せない。気が付いたら、手に汗が吹き出していた。そんな、映画的魅力に満ち溢れた異色の傑作である。

驚異的な身体能力を持った一人の女性、ゼン。彼女は、「自分の身を犠牲にしてまで育ててくれた母親を救う」。そのたった一つの目的のために、壮絶なマフィアとの死闘に立ち向かっていく。

日本人の代表として、阿部寛が何故にこの作品に出演したのか。物語当初は思わず疑問符をつけてしまうほどに、物語の展開と俳優陣の演技には力点が置かれていない。「タイといえばオカマ」、「日本といえば畳」この極めて短絡的な視点が徹底して貫かれ、人物描写への深い理解への配慮は見えてこない。

しかし、主人公ゼンを演じた女優、ジージャーの格闘センスが目覚めたその瞬間。物語はいきなり水を得た魚の如く、観客の目の前で躍動を始める。

ビル街、冷凍庫、肉の解体場に、謎の日本料理店。様々な小道具を配置して作られた格闘ステージ。その中を一人の幼い女性が拳で、蹴りで、爽快を地で行く暴れっぷりを見せてくれる。細かく割られたカットを丁寧に繋ぎ、一発勝負の肉弾戦を鮮やかに、軽やかに切り取った世界には、無駄の無いアクションの設計図が張り巡らされ、いかに見せれば人間の五感を刺激する圧巻の戦いを作り出せるかを、この作品は教えてくれているようだ。

破裂した水道管の如くほとばしる血しぶきを敢えて見せない終盤の刀アクションも、古典の日本映画をきちんと鑑賞、研究した作り手の理解度の高さが伺える。なるほど、だから阿部は本作を選んだのか、そして選ばれたのかと納得させる場数を踏んだ殺陣と、男臭いやくざの香り。勢いで作り上げた訳ではない緻密な計算が、観客を最上級の幸福感へと誘い込んでくれる。

天は二物を与えるのだねと、思わず舌打ちしたくなる主演、ジージャーの美しさと、格闘センス。彼女の4年越しで磨き上げたアクション、まだまだ生かして欲しい。

最小限の台詞でまとめ、キャスト陣のほとばしる筋肉の美しさ一つで作り上げた奇跡ともいうべきアクション映画の可能性。否応無く、観客は観賞後に一人、呟いてしまうのだろう。

「格好良い・・・。」

ダックス奮闘{ふんとう}