バーダー・マインホフ 理想の果てに : 映画評論・批評
2009年7月14日更新
2009年7月25日よりシネマライズほかにてロードショー
ジャニス・ジョプリン~ボブ・ディランでつづられる赤の闘士の歴史絵巻
映画は、ジャニス・ジョプリンのアカペラソング「ベンツが欲しい」(ビートニク詩人マイケル・マクルーアと共作)で始まり、ボブ・ディランの「風に吹かれて」で締めくくられる。最初の曲で70年前後のムードが色濃く打ち出され、最後の曲でディランの呼びかけに応じて社会構造から逸脱した若者たちの悲しい末期が示される。
ドイツ赤軍RAFのアンドレアス・バーダー(「ミュンヘン」と同じM・ブライブトロイ)とウルリケ・マインホフたちが、チェ・ゲバラの提唱した「革命か死か」を理想とし、過激な政治活動に突き進んでいく前半は、彼らがヒッピーカルチャーの洗礼を受けているためか、スタイリッシュさと愉快さに満ちている。たとえば、資金欲しさに銀行を襲うとき、女性たちは、ミニスカート姿なのだ!
ところが後半で、エデル監督はガラリとタッチを変える。「テロリスト集団」の烙印を押されたドイツ赤軍が崩壊への道をたどるさまを沈痛きわまりない重厚なタッチであばき出す。刑務所で坊主頭のマインホフはまるで「裁かるゝジャンヌ」のファルコネッティだ。「チェ」同様に、革命の闘士の死には感情移入できないが、とてもやるせない。
次世代に受け継がれた組織は警察や国家の権力に対する対抗手段もなく、ミュンヘン事件のように暴力行為を「暴走」させるのがむなしい。骨が折れる映画だが、どこか惹きつけられるサスペンスフルな歴史絵巻だ。
(サトウムツオ)