劇場公開日 2010年4月17日

「ギャグと同時進行するシリアスなのだめの切ない気持ちに涙しました。映画として、音楽としても素晴らしいフィナーレでした。」のだめカンタービレ 最終楽章 後編 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ギャグと同時進行するシリアスなのだめの切ない気持ちに涙しました。映画として、音楽としても素晴らしいフィナーレでした。

2010年4月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 ああ、もうこれで終わりかと思うと残念でなりません(T^T)

 はしゃいでいるのだめが抱えている切ない気持ちが伝わってきて、泣けてきました。前編以上に、ふたりの恋の物語は、微妙なすれ違いを見せて深いのです。
そしてなんでのだめが演奏できなくなるのかアニメ編ではすっきりしなかった、のだめ気持ち。そんなのだめの苦しみも分かったいるのに音楽家として、さらに上を目指そうとする千明の気持ちもよく分かりました。

 そんなふたりに音楽の未来を託したミルヒも今回は貫禄たっぷりでカッコよかったです。

 先行して終わったアニメ版を見ていたので、結末はわかっていました。しかし、アニメでは、イマイチのだめと千秋の気持ち見えてこなかったので、消化不良にままでいたのです。
 一番疑問に疑問に思ったのは、のだめが突然千秋にプロポーズするところ。そのときのシチュエーションは、千秋がルイと組んでラベルのピアノ協奏曲の公演を済ませた直後でした。こともあろうに、その曲はのだめが千秋との共演を望んだ曲でした。しかも、千秋は、本当のことを言い出せなくて、隠していたのです。
 のだめのショックは相当なものでした。だから、アニメ版で見たときは、ヤケになっていったのかなと思ったら、違っていました。

 そうでなくて、のだめはルイの演奏を聴いて、完全にノックアウトされたのです。自分以上の演奏をされたと。千秋先輩と夢の共演を実現するには、千秋に満足してもらえる演奏をしなければいけないのに、自分にはもうそれが出来ない!だったら演奏家になるのを諦めて、千秋の奥さんになろうと決意したのです。

 そんな決断にのだめが追い込まれるまでに、次々のだめの身辺にはショックなことが起こっていました。前編のラストには、千秋が独演でピアノ協奏曲を演奏したことがきっかけで、ふたりが疎遠になり、気まずさもあって千秋は別居することに。
 またヴィエラ先生(この人本物の世界的指揮者なんです。)からは、コンサート禁止令が出され、課題曲はダメだしばかり。こんなことでは、千秋との共演は、無理と焦っていたのでした。
 そんな矢先での、ルイとの共演だったのです。

 そんな苦しむのだめを見て、千秋はのだめを音楽の世界に引っ張り込んだこと自体に、自問自答します。田舎で、望むまま幼稚園の先生になっていたら、もっとのびのび音楽を楽しんでいたはずなのにと。
 しかしのだめが奏でるピアノの音を聞くたびに、のだめに真剣に音楽と向き合って貰いたいという欲求に千秋はかられたのでした。

 こんな具合に、のだめと千秋の気持ちが絶妙にすれ違います。もうピアニストなんか辞めちゃえと、深い絶望にあったのだめは、かえって陽気に千秋に戯れつきます。上野樹里の妖気のこもったおバカぶりが、凄く意味深にみえて、のだめが抱え込んだ複雑な思いに共感して、ホロリとさせられました。とってもシュールなラブトスーリーです。

 もう辞める。そんな決意を胸にしまったいたのだめのところにミルヒがやってきます。せがまれて、もうこれが自分の最後の演奏になるだろうと覚悟して選曲したが、学校の課題曲にもなっていたベートーヴェン:ピアノソナタ第31番変イ長調作品110でした。この曲は、歌曲のような哀切な旋律の『嘆きの歌』と呼ばれる部分と歓喜に満ちたフーガが入れ替わりながら繰り返される構成の最終楽章を持つ、いまののだめの気持ちを代弁するものでした。

 ミルヒは、のだめの演奏に感激し、一緒に協奏曲をやろうと言い出します。一緒に音楽に向き合おうと。世界的指揮者による突然の新人の大抜擢で、のだめのレビューコンサートはマスコミの注目となり、のだめは一挙に時の人となります。
 演奏したショッパンのピアノ協奏曲は、ショパンが故郷を旅立つときの意気込みを表した曲で、これもまた楽壇にデビューしたのだめの気持ちを代弁していました。

 けれども、ヴィエラ先生はミルヒに憤慨します。あと一息で、どんなことになっても音楽に向き合っていく強い精神性が持てるところだったのにと。ダメにしてしまったと。
 ヴィエラ先生の予感は的中。のだめはデビューで、実力を発揮しすぎて、もうこれ以上の演奏は2度と出来ないと失踪ししてしまいます。成功したのに何で?と思われるでしょう。のだめは、千秋と共演するときは、もっといい演奏をしなければと強迫観念に囚われてしまったのです。そしていい演奏をしなければ、千秋を失ってしまう気がして恐かったのです。

 一方、演奏前にミルヒから、もうお前はのだめのペアでない。ルイとでもやっとれ!と断罪された千秋は、気が気ではありませんでした。お前は他の誰かとでも、満足なのかとほのかに嫉妬の心も抱いてしまうくらいに。さらに、コンサート終了後に、のだめから、会いたくないと冷たく突き放されて、余計に焦りまくります。
 俺たちもう別々なのかと、千秋が観念したとき、千秋の心に押さえでいたのだめへの想いがこみ上げてくるのでした。

 離れていくふたりの距離。そして演奏できなくなってしまったのだめはどうするのか。感動のラストをぜひ劇場で見てください。

 それにしても憎いのはミルヒ。のだめが潰れてしまい、千秋との仲もぎくしゃくするのを見越して、それでも二人に自分が見ることがもう出来なくなってしまった音楽の未来を託していたのでした。
 余命が迫っていたミルヒにとって、ふたりを試練に立たせたのは、「明日への遺言」だったのかもしれません。

流山の小地蔵