劇場公開日 2009年10月24日

「【今作は、腐りきった航空会社の元労組委員長と副委員長の未曽有の事故後の余りにも対照的な生き方を軸に、組織の在り方と男の生き方、家族の在り方を描いた骨太な社会派作品である。】」沈まぬ太陽 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 【今作は、腐りきった航空会社の元労組委員長と副委員長の未曽有の事故後の余りにも対照的な生き方を軸に、組織の在り方と男の生き方、家族の在り方を描いた骨太な社会派作品である。】

2025年11月22日
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鑑賞方法:VOD

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ー 山崎豊子のベストセラー同名小説が底本になっているようだが、年代的に読んではいない。が、父の書棚にはあると思う。昭和再後期に猛烈サラリーマンだったし、今作の恩地程ではないかもしれないが、漢気がある人だからである。
  今度、実家に帰った時に、原作を読んでみようと思ってしまった。-

■国民航空の労働組合委員長として職場環境の改善に取り組んだ結果、海外のカラチ、テヘラン、ナイロビと、現在では考えられない”タッチ・アンド・ゴー”人事異動を意図的に命じられた恩地(渡辺謙)。
 それでも、彼は家族を犠牲にしながら勤め上げ、10年後本社へ復帰するも、彼への冷遇は変わらなかった。
 そんななか、史上最大の航空機墜落事故が起こる。彼は事故現地に赴き、遺族係を命ぜられる。
 一方、副委員長で、親友だった行天(三浦友和)は、人が変わったように数々な手段を使って、社長の座を目指すのであった。

◆感想<Caution!内容に触れています。>

・現代の感覚からは信じられない事ばかりが国民航空内で行われて行く事に、驚愕しながらも、強く引き込まれた作品である。
 唱和の大企業の全てがこの国民航空のような、腐りきった会社だとは思わないが、チビッ子の頃には航空会社や鉄道がしょっちゅう、ストライキを行っていた事を思い出す。

・今作を観ていると、健全な企業としてあるべき<労使協調>の姿勢が、国民航空の事故を起こす前の経営陣に全くない事に、直ぐに気付く。
 それが遠因で、整備不良や様々な原因で事故が起きた事が推測できる。
 その後も、社内で4つ!の労働組合が出来るのである。第二労働組合が出来るだけで大変なのに。人事労務を代表とした社内統制が全くできていないのである、国民航空と言う政府も出資している大企業は・・。

・だが、今作で主に描かれているのはそこではない。大企業に勤める元親友の二人の男、恩地と行天の余りにも対照的な、未曽有の事故後の生き方である。
 恩地は辛酸を舐めながらも、命じられた仕事を全うしようとする。彼の脳裏には自分が勤めている会社が起こした、悲惨極まりない事故に対する深い悔いがあり、故に遺族に対し献身的に尽くす姿である。それを、名優渡辺謙と、夫に対する会社の理不尽な仕打ちに耐える妻を演じた鈴木京香が見事に演じている。

・対照的なのは、行天を演じた三浦友和の、事故後の無表情に役人、政治家、且つての仲間を自家薬籠中に操り、会社の中でのし上がっていく様が凄い。体重も増やしているのではないだろうか。
 三浦さんの凄味のある抑制した演技有りて、渡辺謙さん演じる恩地の清廉潔白な姿が生きるのである。見事だと思う。

■ラストの、行天と恩地の対照的な姿も印象的である。
 行天はテコで使っていた労組時代の部下、八木(香川照之)が、行天から受けた指示をこまめにメモした手帳を東京地検特捜部に郵送した後に、東尋坊の断崖絶壁に立つ姿と、その後、行天が国民空港本社を出た時に歩み寄る三人の男。行天は一瞬だけ本社に翻る社旗を見て黙って特捜部の促しにより社から去る姿と、行天から再びナイロビ赴任を告げられながら、アフリカの平原に輝く太陽を見て希望を持つ、”超鋼のメンタル男”恩地との姿である。
 唱和のサラリーマンは凄かったのであるなあ、とつい思ってしまったシーンである。

<今作は、腐りきった航空会社の元労組委員長と副委員長の未曽有の事故後の余りにも対照的な生き方を軸に、組織の在り方と男の生き方、家族の在り方を描いた骨太な社会派作品である。>

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