劇場公開日 2009年10月24日

「これは、小説だからねぇ。」沈まぬ太陽 勝手な評論家さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0これは、小説だからねぇ。

2009年10月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

山崎豊子の、とある航空会社の腐敗を描いた長編小説。小説なので、この国民航空は<b>【一応】</b>実在しない架空の航空会社と言う設定ですが、モデルとなったのは日本航空と言うのは一目瞭然です。

また同時に、小説の登場人物も実在の人物を髣髴させところが多々あります。しかも、その描写は物事を一面からしか見ていない描き方で、非常に誤解を耐える描き方であるという事で、原作の出版時に日本航空側から山崎側に「事実無根」あるいは「事実錯誤」として、様々な抗議があったといわれています。それが為に、この小説は、未だに日本航空では一種の禁書であるとか・・・。

今回の映画化に際しても、その原作の内容が影響を与えています。その一つとして、日本航空側から製作側に抗議が為されたと言われており、それが当初予定よりも公開までに時間が掛かった一因です。製作者に、最近の映画では必ず名前が入る放送局が入っていないのも、その抗議が遠因です。それにしても、日本航空が経営に陥った今、この作品が映画化・公開されるのは、何かの皮肉なんですかね?

前置きが長くなりました。主人公恩地は、実在の人物小倉寛太郎氏がモデルの一人となっています。小倉氏は、長期間に亘る海外僻地勤務を強いられ、日航123便墜落事故の後には会長室の部長に、そして会長が失脚した後は再びアフリカへと、映画に描かれたような経歴を繰り返します。あれは、映画の中の話では無いんですね。そしてそんな恩地を演じたのは、渡辺謙。やっぱり彼は、骨の有る男を演じるのが上手いですね。実際の小倉氏を見たことは無いんですが、こんな筋を通す男だったんですかね。熱いです。

その恩地の同期で、後に袂を分かち、様々な策謀を画策する行天を演じるのは三浦友和。いやぁ、彼のダークな面を持つ演技も良いです。彼本人を嫌いになってしまいそうでした(苦笑)。ちなみにこの行天にはモデルとした特定の実在人物はいないとされています。あんな人がいたら嫌ですよね。

国民航空再建の為に送り込まれてくる国見会長のモデルは、カネボウの伊藤淳二氏です。この小説では、企業再建の為に送り込まれてくる改革家と言うイメージですが、その後のカネボウ解体の伏線となったのは、伊藤氏の頃。伊藤氏に、本当に日本航空改革の力があったのは未知数とも言えます。それはさておき、国見会長と恩地が、羽田空港で新年一番機を見送るシーンがあるんですが、これを撮影したのは、気温40℃のタイの空港。画面では、寒い冬にちゃんと見えていますけどね。そんな暑い中なのに、シレッとした表情で冬を演じているのは流石です。

前述のような経緯があるので、撮影に際しては、当然日本航空の協力は得られていません。よって航空機のシーンは全てCGとなっているんですが、突っ込みどころ満載です。あまり本質ではないので、特に記しませんが、「そりゃ無いぜ~。」と言う感じです。

他方、圧倒された映像もあります。遺体安置所となる体育館に並んだ123便事故で犠牲となった人々の棺の映像です。事故現場の再現では「クライマーズハイ」の方が一枚も二枚も上ですが、体育館に並んだ数多くの棺の映像は、実際のあの事故の記憶が明確にあるだけに圧倒されました。上映中の会場も、針が落ちても聞こえるくらいの感じの静けさでした。他の観客も、思い出していたんでしょうね。

それにしても、よくもあの小説を映画化しました。途中、10分のインターミッションを挟むという非常に長い作品になってしまいましたが、あれ以上短くするのは無理でしょうね。あの3時間を越える長さでも、映像にされていないシーンは沢山ありますからね。

何とも治まりの付かない気持ちのまま、終わってしまいます。最後にハッピーエンドなどを求めてはいけません。原作の内容に関しては、色々と曰くがある作品ですが、一見の価値はあります。

勝手な評論家