「緻密な経済リサーチにスタイリッシュな映像に満喫しつつも、所々説明不足気味なところが残念です。」ハゲタカ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
緻密な経済リサーチにスタイリッシュな映像に満喫しつつも、所々説明不足気味なところが残念です。
経済小説が原作だけに専門用語も飛び交う本格的な金融映画。少々難しいかもしれないけれど、登場人物の際だったキャラといき詰まるTOB、公開買い付けバトルの展開がてきぱきと整理されていて、金融に弱い人でも楽しめる内容となっています。
特にドラマ版から引き継いだ厚みと深みのあるスタイリッシュな映像は、本作ならではのものでしょう。
ドラマ『ハゲタカ』は、バブル崩壊後の日本が舞台でした。劇場版の舞台は、現代。刻々と変化する金融情勢に併せて、書き換えられていった台本(役者は大変だが)は、今という時代をタイムリーに捕らえていました。特にサプライムローンからのリーマンショックの舞台裏については、現実に起ったこととを彷彿させる出来事が続き、丁寧にリサーチしていることを伺わせます。
特に、中国が国家をあげて日本企業に買収をかけた場合、日本経済を占領しえる可能性があることを示して、戦慄を覚えました。
専門性にこだわった分、専門用語が多すぎて、NG14連発もした出演者がいるくらい、台詞回しは難しかったようです。
本作で魅力的なのは、かつてハゲタカと呼ばれた鷲津ファンド代表の鷲津政彦。鷲津の描き方にに共感してしまうところは、アカマ自動車の救済にあたる鷲津を正義の味方に描いていないことです。
本人にも、資本主義の亡霊のように語らせてます。特にかつて買収に絡んだ先のトップを自殺に追い込んだことを、十字架のように背負わせ、自分は何者であるのか自問自答させていたのです。
鷲津の口癖のように迫る「お前は、何者だ」との言葉は、おそらく自分への問いかけだったでしょう。彼を演じる大森南朋がいぶし銀の魅力を放っていました。
その反面鷲頭に挑む劉一華については、彼が隠し持っていたハゲタカにふさわしくないアカマ自動車再生への熱意という持ち味が出ていなくて残念。玉山鉄二もがんばって演じているのですが、演出の方の、力不足でしょうか?
映像表現としては、経済戦争をエンターティメントのバトルとして斬新に表現しているけれど、人間の再生ドラマとしては、いまいち描けていなかったですね。細かいところでは、突っ込みどころ満載です。あえて指摘するなら、アカマ自動車の再生の方向性をもっと明確にしてほしかったです。 アカマ自動車の古屋社長が行ってきた、派遣切りなど人件費圧縮に対して、本作品は非人道的であると批判的に描きます。ただそれに対する反論して、日本人の勤勉さに確証のない希望を持つことしかないと主張させるのでは、あまりに浪花節です。混迷と不安に満ちた現代に放つ提言的な作品を目指すなら、具体的にこうすれば日はまた昇るのだ、日本は捨てたもんではないのだということが示されたことでしょう。せっかく緻密な経済ドラマであったのに、資本主義への批判ばかりに制作陣がとらわれて、再生への展望が弱くなっていると思います。
そしてラストに劉一華の故郷を鷲津が訪れるところでも、あまりにシンボリック過ぎて、何を意味するのか不明でした。おそらくライバルとなった劉一華の本質を見ることで、鷲津の心の中に、救いが生まれたのではなかったかと思います。
その点では、もう少し劉一華の素性を描いてほしかったですね。
冒頭に登場する、中国の農道に赤い車が疾走するところと、その同じ道をラストで感慨深く鷲津が佇むところがとても印象的でした。