ハゲタカ : インタビュー
1990年代中盤から2000年代前半にかけての日本経済の“失われた10年”と、外資ファンドによる“企業買収”というテーマを絡め、大反響を巻き起こしたNHKのTVドラマ「ハゲタカ」の映画版が今週末ついに公開を迎える。天才ファンドマネージャー・鷲津政彦(大森南朋)が日本企業に次々と買収を仕掛け、企業、そして自らを再生させていく姿を描いたTVドラマ版から4年後の東京を舞台に、日本の大手自動車メーカーに買収を仕掛けた中国系ファンドの“赤いハゲタカ”こと劉一華(玉山鉄二)と、自動車メーカーのホワイトナイトとして立ち向かう鷲津の壮絶な買収戦争が描かれる本作。eiga.comでは、TVドラマに続いて映画版でも主人公・鷲津政彦を演じた大森南朋にインタビューを行った。(取材・文::おかむら良)
大森南朋 インタビュー
「今まで演じた中で自分とは一番違う人物だが、だからこそ演じがいがある」
──NHKで「ハゲタカ」が放送されたのは2007年の2月〜3月でした。約2年ぶりに天才ファンドマネージャー・鷲津政彦を演じた感想は?
「ドラマが評価されて映画になるということが、これまで自分が関わった作品にはあまりなかったことだったので、映画化の話を聞いたときは素直にうれしかったです。ただ、脚本に対しては期待と同時に正直、不安もなくはなかった。撮影に入る前からドラマの時のあのテンションを引き戻せるかと心配もしたのですが、確実にあのテンションに戻っています。大友監督も同じ気持ちだったと思いますし、ドラマから共演している柴田恭兵さんや栗山千明さんもいるので、衣裳を着ると自然に鷲津が戻ってきたという感じです」
──映画化の脚本を読まれた印象はどうでしたか。08年9月のリーマンショック以後、世界の経済情況は大きく変わっています。
「今の世の中で起きている問題をうまく拾った、良い脚本だと思いました。昨年末、派遣村のニュースを見ながら、ああ、これでまた脚本が変わるんだろうな、と思っていたら、年明けにやはり予想通りの事態に(笑)。Vドラマの時から一貫して思っているのは”骨太なドラマをやりたい”ということで誠実に人間ドラマを演じてきました。その部分は監督も理解してくれています」
──鷲津はクールで頭が切れるイメージですが、キャラクターをどうやって作っていったのでしょうか?
「TVドラマが始まった頃は、たぶん大森南朋という人間からものすごく遠いというか、今まで演じたなかで一番素の自分とは違うタイプの人物だと思いました。鷲津にとって何が正しくて、何が悪いのか、ということがぜんぜんわからなかった。だからこそ演じがいがあるというか、おもしろかったです。僕が演じるということは、どこかに僕の生理が出ていて、それをなんとなく鷲津に投影しています。監督やプロデューサーと話をしながら、鷲津を作り上げてきた感がありますね」
──TVドラマの鷲津は、企業買収を仕かける側でしたが、今回は、狙われているアカマ自動車に頼まれ、ホワイトナイト(友好的買収者)として登場しました。
「口ではそんな事を言っても、鷲津はこの仕事を捨てられないし、気にならないわけがないんです。だから柴田さんが演じる芝野の依頼を受けて、結果ホワイトナイトを引き受ける。鷲津は劉に仕掛けられる側なんですが、その彼をまだまだ甘いなと思って見ている。ライバルとしての見方もあるけど、どこかで同士という感覚もある。仲間ではないけど、同じ血が流れている人種ではあるので。微妙な距離感なんですね」
──撮影現場で見ていると、大友監督はかなり粘り強い印象でした。演技の途中で何度も話し合ったりしていましたよね。
「大友監督とは撮影前にも、日常会話の中でなんとなく確認しあうんです。なんとも曖昧な確認方法なんですけど(笑)。でも結局は撮影現場に行って、僕が演じてみて、初めて埋まるものもある。反対に、そこで全く違うものが引き出されることで、そうなることもあります。僕は大友監督をすごく信頼していて、おそらく大友さんも信頼してくれていると思うので。その距離感の中で、自然に鷲津を演じることが出来ている感じです」