ハゲタカ : 映画評論・批評
2009年5月26日更新
2009年6月6日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほかにてロードショー
映像に緊迫感はあるが、TV版を見ていない人には少し分かりにくい
日本のバブル崩壊後を背景にした07年のNHK土曜ドラマ「ハゲタカ」(全6話)は、毎週欠かさずに見ていた。上司の命令で融資先の経営者を死に追いやった銀行員の鷲津政彦(大森南朋)が、トラウマを抱えながら外資で日本を買い叩く徹底的合理主義のハゲタカに生まれ変わる人間の二面性がおもしろかったし、ステディカムを多用した映像にビビッドな臨場感があった。TV版を演出した大友啓史の監督デビュー作になる映画版「ハゲタカ」には大いに期待した。
物語は、リーマン・ショック以後の世界不況を反映し、中国系ファンドと日本の自動車メーカーの買収をめぐる攻防戦を描く。アカマ自動車のホワイトナイトになる鷲津の動機が曖昧だし、レギュラー陣の柴田恭兵、栗山千明、松田龍平らのキャラクターが描ききれていない。TV版を見ていない人には、ちょっと分かりにくい部分があるかもしれない。そのぶん中国系ファンドを率いる劉を演じる玉山鉄二が、憎まれ役にもかかわらず突出したカッコよさを見せる。
お金はボーダレスだし、善悪も関係ないからこそ、単に数字のお金に振り回される人間の欲や悲喜劇が生まれる。経済は生ものなので映画化は難しいが、かつては「金融腐食列島 呪縛」のような傑作もあった。大友監督は映像に緊迫感があるし、映像化しにくいテーマに挑戦する意欲もある。日本VS中国というだけでなく、倒産や派遣切りといった現在の深刻な問題に、もっと深く切り込んで欲しかった。
(垣井道弘)