女の子ものがたり : 映画評論・批評
2009年8月25日更新
2009年8月29日よりシネクイント、シネカノン有楽町2丁目ほかにてロードショー
何よりも大事なのは好きであることだ
森岡利行監督の作品では、成功や挫折は必ずしも重要ではない。何よりも大事なのは好きであることだ。前作「子猫の涙」では、挫折を繰り返す伝説のボクサー・森岡栄治の存在は、娘の治子にとって「アホでスケベなエロ親父」でしかない。しかし、父親はボクシングが好きだったのかという疑問に答えが出るとき、それが変わる。
「女の子ものがたり」では、西原理恵子の原作とは違い、3人組の少女の体験や絆がそのままではなく、大人のヒロインの回想というかたちで描かれる。36歳の漫画家・菜都美は、なぜ少女時代を思い出すのか。最初はスランプに陥ったことがきっかけのように見える。しかし、終盤で彼女が故郷に帰ることによって、それまでのドラマの意味が変わる。
菜都美と新人編集者のやりとりが示唆するように、彼女が自分らしい作品を発表したのは10年以上も前のことで、その後は妥協を繰り返してきた。そんな彼女は、少女時代を思い出すある出来事がきっかけになって、このままでいいのかと思うようになる。
菜都美の回想からは、自分の“好き”を追い求める少女の姿が浮かび上がる。そして、いつか出会える親友ともう会えない親友の距離が消え去るとき、彼女は再生を果たすのだ。
(大場正明)