劇場公開日 2009年10月31日

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「掴みはよかったのに、後半の展開がネタに詰まった感じがしました。お金の使い方を考えさせてくれる作品と言えるでしょう。」わたし出すわ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5掴みはよかったのに、後半の展開がネタに詰まった感じがしました。お金の使い方を考えさせてくれる作品と言えるでしょう。

2009年10月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 冒頭函館の街で、金塊が複数の家のポストに投げ込まれるというニュースが報道されます。場面は変わって、東京から故郷に帰ってきた主人公山吹摩耶(マヤ)は、引っ越し業者にチップを10万円も弾むかと思えば、久々に高校時代の同級生たちと再会し、彼らの夢や希望の実現のために、次々に「わたし、出すわ」と大金を差し出すのです。
 どのように稼いだお金なのか、なぜ出すのか、脚本も担当した森田監督は意図的にネタバレせずマヤには、その場の思いつきで、いろんなダーティーな方法で稼いだ金だとジョークを飛ばし、同窓生たちを煙に巻きます。
 さらにマヤは仕事もはっきりしないという非常にミステリアスな存在として描かれています。いかにも森田監督が好みそうな展開で、掴みとしては、すごく好奇心をそそられました。
 ただ、最初の台本では完成稿よりもさらに説明が少なくて、断片的な情報しかなく、主演の小雪は、これで本当に観客に伝わるのかという疑問を持ち、不安を感じたそうです。だから、最初は役作りに悩んだそうなのです。

 そんな不安を消し飛ばしたのは、ロケ地函館の存在。近年函館を舞台として製作される邦画作品が多くなっています。エキゾチックな港町だが、どこかうらぶれた表情もさせる函館は、本作の隠された主人公の秘密を補って余りあるものがあるのでしょう。
 小雪も、現地に入って、役をつかめる瞬間みたいなのがあったと語っています。「函館特有の空気感、土地柄、そこに住む人たちの人柄みたいなものが彼女を惹きつけているんだということが、肌で感じられるようになった」と試写会のインタビューで語っていました。

 マヤのお金の出し方も不思議です。対象は高校の時の同窓生限定。その同窓生から自分なんかよりももっと貧困に喘ぐ世界の人たちに寄付したほうが、有効なのではというもっともな質問が出たけれど、マヤはニコッと笑って、あなたを応援したいのという一点張り。リアルティがないなと苦笑しつつ、次のエピソードのところでハタと気がつきます。
 この物語自体が、『箱庭』なんだと。

 箱庭の話は、同窓生のなかには、夫が箱庭を愛好しているというエピソードから出てきます。その夫が語る箱庭の魅力とは、自らが天地を想像した神のごとく、「地上」を俯瞰して、箱庭の世界を想像できることであるとのことなのです。

 森田監督も、このリアルティーのないストーリーを敢えて作ったのは、大金を得て故郷に戻ってきたマヤと、旧知の5人の同窓生で箱庭世界を創造したのだと思いました。
 本作で監督は神となって、主人公と同窓生達に大金を恵んだら。どのようなアクションを起こすのか、独り楽しんでいるのだと思います。

 神となった森田監督が、用意した結末は、やはり褒章必罰となりました。あるものは妻が使い込んで、夫婦不仲となり、あるものは研究を止めたり、それぞれに挫折していきます。ここで神が語ろうとする教訓は、お金の与え方。お金を人に与えるときは、よく考えて出さないと、かえってその人をダメにしたり、不幸を招き込んだりすることがあると言うことです。
 だから票になるからといって、国民にばらまく政府も問題ですね。それぞれに人たちが自立していこうとする意欲をそぎ取り、国家に安易に依存しようとする政策は、やがて国を滅ぼしていくことになるでしょう。与えることにおいて、智慧が必要なんだということはよく分かりました。

 箱庭を楽しむ作品なので、結末は何でもありというのは理解出来ます。でも突然お金をあげた人が殺されたりするのは唐突過ぎました。特に金の延べ棒バラマキ事件のネタバレは、絶対に主婦が無益にそんなバラマキをするはずがないだろうとしらけましたね。

 ラストは、マヤのスッキリしないネタバレと相まって、後半の展開がネタに詰まった感じがしました。掴みはよかったのに残念です。
 感動するところは少なくて、不思議な主人公の行動によって、お金の使い方を考えさせてくれる作品と言えるでしょう。

 路面電車ファンの小地蔵としては、市電の運転士道上とマヤが語り合う路面電車談義に多いに賛同した次第です。エコが叫ばれている割には、日本の路面電車はなかなか復活しません。そんな現状に憤慨し、世界の路面電車事情を見学したいという道上の夢にマヤはお金を出したのでした。それなら函館市電にも、ポンと新車購入資金を出してあげてもよかったのにね、マヤさん!

流山の小地蔵