劇場公開日 2009年10月31日

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わたし出すわ : インタビュー

2009年10月23日更新

ジャンルを問わず、さまざまなテーマを扱いながら、常に人間のありかたを描いてきた森田芳光監督。最新作「わたし出すわ」は、「(ハル)」以来13年ぶりのオリジナル脚本で、お金と人間のありかたを追求する意欲作に仕上がった。リーマン・ショック以降、未曾有の経済・金融危機の余波がいまだ残る現代社会に、「わたし出すわ」が出てゆく意義は深い。森田監督に話を聞いた。(取材・文:鴇田崇)

森田芳光監督 インタビュー
「僕の場合の『わたし出すわ』は、映画を撮るということです」

監督が「わたし出すわ」に込めた思いとは?
監督が「わたし出すわ」に込めた思いとは?

■意味深なタイトルに込められた思い

わたし出すわ」という想像を掻き立てるタイトル。その語感からストーリーへの期待が高まるが、そこには当然、森田監督なりの思いや狙いが込められている。

摩耶は旧友たちに次々とお金を提供していく
摩耶は旧友たちに次々とお金を提供していく

「考えてもらえる映画を撮りたかったわけです。映画を見た後に、ただ面白かった、感動したということではなくて、ディスカッションや反すうをしてもらえるような映画をね。そういうジャンルをそろそろ作っておいたほうがいいかもしれないという、漠然とした思いがありました。そういう懐の広い映画にするためには、タイトルは単純でわかりやすいほうがいい。自分の中のテーマと重ね合わせた時に『わたし出すわ』がいいなと。ちょっと変化球ですけどね(笑)」

わたし出すわ」の省略されている目的語は「お金」だ。小雪演じる主人公が、旧友たちの夢を叶えるために次々と大金を「わたし、出すわ」と言って差し出していく。森田監督は、そんなお金にまつわるストーリーを描きたいと、5~6年前から漠然と考えていたという。

「インターネット上で株や投資信託、FXができるようになったことが、ストーリーの着想のきっかけですね。それで大金を稼いだ人は、どうお金を使うのかということと、銀行が融資をしないために中小企業の才能が潰されている――僕で言えば、映画のお金が集まらないとか(笑)。そういう異様な現状に関心がありました。そんなお金にまつわるモヤモヤしたものを、映画のテーマにしようと。そうしたら、たまたま例のリーマン・ショックが起きて、全世界的にお金に対して注目が集まる時代になってしまった。これには、本当にびっくりしましたね」

■監督にとっての「わたし出すわ」

監督にとっての「わたし出すわ」は、映画を撮るということ
監督にとっての「わたし出すわ」は、映画を撮るということ

主人公・摩耶は大金を差し出すことで他人の人生を変えていく。人に対して大きな影響力を持っているという意味では、映画監督や俳優も似たような立場にいるが、この指摘に森田監督自身は同調する。

「僕の場合の『わたし出すわ』は、映画を撮るということですが、現代は『わたし出すわ』という影響を与える人が少ない気がします。税金の使い道だって不透明でしたが、ようやく見えてきたのが最近ですよね。そして、大事なことはお金を出すだけではなくて、心も出すこと。しょせん、お金はお金。僕らが欲しいのは、ハートですよね。これは経済で表現できるものじゃない。人間の話ですからね。その意味でも、『わたし出すわ』という抽象的なタイトルにしました」

わたし出すわ」を撮って、あらためて人間の多様性に気がついたという森田監督。これまでつぶさに人間を描いてきた名監督でさえ、知らないことが多くて驚いたそうだ。

「この映画の本質はひとつしかなくて、相手を知ることや気持ちを受け取ることなど、お金に代えられないものがあるということです。これだけは世界共通ですよ。『わたし出すわ。その代わり……』なんて、見返りを求めるタイトルのような世界は嫌ですよね(笑)。また、お金にまつわる話ばかりしていますが、ネガティブな映画ではないです。お金は誰もが持っているのに、みんな価値観が違う。だから、残るのは気持ちだけ。ありそうでなかった映画になったと思います」

お金は大事…でも、最後に残るのは人の心
お金は大事…でも、最後に残るのは人の心

結局、どの時代、どの場所でも、最終的に残るのは人の真心。そのことを気づかせてくれる役割を担うのが映画なのだ。

「いまの映画はシネコンの時代なので、バーッと同じように見せて終わってしまう。でも、個人商店や美術館のように、接客する人がいるお店に行って、会話を楽しみながら映画を見ることも悪くない。何時間もかけて一点の絵を見るように映画をじっくりと楽しみ、人と話して、よく考える物語が増えればいいなと思います。僕は、現代のそういう不足感を補いたい。森田商店、森田画廊でもいいですが(笑)、クリエイターとしては、心がけていく必要があるでしょうね」

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