「叙事詩になれなかった、キャラクター&世界観紹介映画。」マイティ・ソー NandSさんの映画レビュー(感想・評価)
叙事詩になれなかった、キャラクター&世界観紹介映画。
前提として
・多分4回目。
・原作と思しきものは未読。
・MCUの映画作品は、大体視聴済。
・ケネス・ブラナー監督の他作品だと、『オリエント急行殺人事件』を視聴済。
あんまり面白くはなかった。
まず、ソー及び北欧の神々の設定はかなり気に入っている。
「神の正体が、実は大昔に飛来した宇宙人だった!」。
なんてリアリティがある設定なんだろう。マーベルの世界観にとてもしっくり来る。原作から来ている設定だとは思うが、やっぱりここは評価したい。
アスガルドのビジュアルも良い。王宮の雰囲気と異世界空間のミックス。金と宇宙と虹。音楽との組み合わせも良い。このあたりは観ていて楽しいところ。
気になるのはキャラクター、ストーリー、戦闘面である。
キャラクター。魅力的なキャラとそうでないキャラの差が激しい。
ソーやロキ、オーディンの魅力は良く伝わった。特にソーとロキ。前者は挫折を味わったのちに、王の器として再起していく。逆に後者は自分の出生の秘密を知り、ひねくれていく。
地球人サイドだと、ジェーンはヒロインとしての描写が強く、良くも悪くもキャラクター性が弱いように感じた。どうしてソーと惹かれあうのかも"物語の都合"といった印象。
ジェーンよりも、セルヴィグ博士のほうが目立つ。ポストクレジットにも再登場するし。ヒロインより目立つのは解せない。
シールドの面々も、秘密組織のエージェント感があって楽しい。ホークアイは出なくても良かったような気もするけど……
しかし、ウォリアーズ・スリーとシフの扱いがひどい。強いのか弱いのか、微妙な立ち位置の戦闘員達。そもそも深堀りするキャラクターでも無いのかもしれないが、各々に分かりやすい個性があったはず。それが全体的に生きていない。ファンドラルとホーガンなんて差別化がうまく行ってないし(ファンドラルは下ネタが多くて、ヒーロー映画に似つかわしくなかったのだろうか)。ただの異世界からの住人というシンボルで終わっているのが物足りない。
あと、"氷の巨人族"と"デストロイヤー"というような悪役も印象が薄かった。メインはそこじゃないけど。あくまでオーディンとロキとの親子・兄弟喧嘩だけど。
別に問題点としてあげることではないのだが、一般の観客が共感できる要素が少なかったのも気になった。
そもそもが王族の話。かつ地球人よりも身体が頑丈で、どこか不死身に視える異星人。戦争に対する危機感が薄い。死が安っぽい。
兄弟・親子の話を主軸に置いているとは言え、ロキの立場は現代で観るとあまりに異質すぎる。言うなればシェイクスピアの作品である。それにしては地球パートに比重が行き過ぎである。うーん……。
ストーリーも、二時間で流す規模ではない。
あくまでソーというキャラクターと、アスガルドの世界観を認知してもらうための内容にしか観えない。一番魅力的だったのはロキだし。
ストーリー後半のメインはソー&ロキの兄弟喧嘩……なのだが、ロキの行動理由がどうもぼんやりしている。分かるっちゃ分かるけど、なぜヨトゥンヘイムを破壊するに至ったのかがイマイチ理解できない。物語の都合に振り回されている感があるうえに、物語的にもあんまりヤバい感じがしない。どうせなら地球を攻撃するほうが危機感も強かった。あ、そうなると『アベンジャーズ』への準備にならないのか……うーん……。
フェーズ1の作品群って『アベンジャーズ』を盛り上げるために犠牲になった箇所が多い気がするな……。
戦闘面。派手だが単調になりがち。
ハンマーで吹っ飛ばす!雷を落とす!風でドカン!……悪くはない。悪くはないのだがカッコよさが足りない。規模感もあるのだろうか。思ってたよりも威力が小さいし。そこら辺のぶっ飛び具合も『アベンジャーズ』まで、おあずけ。
やっぱり『アベンジャーズ』ありきの作品だったんだろうなぁ……
好きなキャラクターやシーンはあるのだが、要らなそうなシーンが多かったり、そもそも地球パートがいまいちだったり、盛り上がりに欠けていたり、と全体的に面白くなかった。
『アベンジャーズ』公開への負担も感じる。そんな作品。