「観察し、理解し、自分で選択すること」ヒックとドラゴン 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
観察し、理解し、自分で選択すること
毎度遅れ気味のレビューですが、まあひとつ。
飛翔シーンの圧倒的な爽快感やヒックとドラゴンとの交流については他の方のレビューで十分に語られていると思うので、無い頭を絞ってちょっと違った点からレビューしてみたい。
この映画、『幼児向けだ』とのレビューも一部見受けたが、子を持つ親や固定観念に凝り固まってしまった人に対するメッセージも多分に含んだ映画だと思う。
バイキングの伝統だからという理由で、伝統に従う。
危険、殺せ!という教えを鵜呑みにして、ドラゴンを殺す。
いやいやちょっと待て、と。
昔の誰かが決めたからといって、その決まり事が本当に最善だと言えるのか。盲目的に従っても良いのか。
相手や物事から一歩引いて観察し、理解する努力をすること。その上で選択すること。それが大事だと本作は伝えているようだ。
しかしその選択が良いか悪いかはまた別の話。どんな判断にもリスクと責任が付きまとうという冷徹な現実がラストでも示される。
だが自分を持たずに従った結果何かを失うよりは、まだ幾らか納得がいくだろう。
観察が必要なのは別にドラゴンに限った話じゃない。自分の子どもだって良く観て、理解してあげなくては。
狩りで多忙なヒックの父親より、その間ヒックの面倒を見ていた鍛冶屋のオッチャンの方がよっぽどヒックの本質を理解してくれていた。序盤で彼は言う。
「向いてないのに無理して目指すなってことだ」
勿論、この父親は息子を大切に思っている。
息子が訓練で成果をあげたのが嬉しくてしようがないのに拙い会話しか交わせなかったり、息子を突き放すような言葉の後で『とんでもない事を言ってしまった』と言わんばかりの表情を見せたり、その愛情の程はよく伝わる。
だが彼は息子をバイキングの型に嵌め込もうとするばかりで、息子を冷静に観察できていない。
私的な意見だが、親が子に生き方や信条を押し付けるより、その子の個性・才能を見抜いて伸ばしてあげる方が子どもの為なんじゃないかと。
さて話は変わって不満点。
物語や映像は申し分無い映画だと思うが、世界観の広がりや密度といった部分はやや薄味に感じた。
ドラゴンは多種登場するし、その生態や人間と対立する理由についてもある程度は描かれる。だがそれ以外の生態系の描き方はちと寂しい。動植物とか魚類とか、他生物の描写にもう少し注力されていれば、よりこの世界観に入り込めたかも知れないかな。
<2010/8/7鑑賞>