「「父さん、一度ぐらい僕の話を聞いてよ!」」ヒックとドラゴン マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
「父さん、一度ぐらい僕の話を聞いてよ!」
ドラゴンに村が襲われるプロローグだけで、主要人物とその性格、そして力関係まで判る。しかもよく見るとドラゴンの種類や攻撃パターンまで盛り込まれている。スピーディーなアクション・シーンに、これだけの情報を積み込んで見せられれば、この先も生半可な作りではないと期待が膨らむ。
案の定、おっかなびっくりドラゴンに近づくヒックと、威嚇する手負いのドラゴン・トゥースがしだいに警戒を解いて心を通わせていくシーンは、時間をたっぷりかけ段階を踏んで表現される。とくに、ヒックのはにかんだ笑い顔を真似しようとするトゥースのカットが愉快だ。アニメならではである。
さらにヒックがトゥースの消失した尾ひれを作ってやり、自ら操作することで一体となって空中を飛び回るシーンは、「アバター」よりスリリングで爽快だ。
ここまできたら、もうあとはまったく心配がいらない。ガリガリの草食男子系ヒックと、オオサンショウウオに翼をつけたようなトゥースの活躍に安心して身を任せられる。肉食系少女アスティの絡みも楽しい。
父の息子に対する期待と失望、父の期待に応えようという気持ちと自分らしく生きたいと思う気持ちに揺らぐ少年、両者の心もうまくアレンジされている。「父さん、一度ぐらい僕の話を聞いてよ!」ヒックの叫びは、子供はいつまでも子供ではないことを訴える。
ストーリーもテーマも単純、それでも、よく作り込まれた作品は面白い。最初から最後まで隙がない。音楽も旋律がわかりやすく、ダイナミックで夢がある。
お互いハンデを背負ったヒックとトゥースが並んで外に出たとき、そこにはその代償にふさわしいだけの光景が待っていた。そして明るい未来があった。
p.s. 字幕版は全国でも2館しかない(公式サイト劇場情報参照)。3D版では皆無だ。それなのに、本作の公式サイトには吹き替え版のキャストが載っていない。おかしな話だ。
ヒック・・・田中隼、ストイック・・・田中正彦、アスティ・・・寿美菜子、ゲップ・・・岩崎ひろし、スノット・・・淺井孝行、フィッシュ・・・宮里駿、タフ・・・南部雅一、ラフ・・・村田詩織