「銃声やら爆撃よりも重く痛い」縞模様のパジャマの少年 凛々シストさんの映画レビュー(感想・評価)
銃声やら爆撃よりも重く痛い
まず、原題の『The Boy in the Striped Pyjamas』も、邦題の『縞模様のパジャマの少年』も素晴らしいタイトルでございます。
この映画の舞台は、ナチスドイツがホロコーストを行っていた第二次世界大戦下のドイツであり、映画の主人公はブルーノというナチスドイツの将校の9歳の息子ですが、彼はあまりにも純粋で無垢すぎて、戦争のせの字も知らないような子で、強制収容所に収監されたユダヤ系の民族の纏った縞模様の囚人服をパジャマだと思うような子であります。
そんな歴史的な教養のないドイツ人の子が、英語をペラペラ喋るという矛盾点だとか、ブルーノと同い年の8歳の労働力のない子が、強制労働収容所に収監されているという些か無理のあるような設定にも目を瞑りましても、これは非常に優れた戦争ドラマであり、ヒューマンドラマです。
これまでにホロコーストを題材にした映画というのは多々観られましたけれども、この映画でのホロコーストに対してのメッセージのアプローチは、明らかに毛色が違います。
まず、主人公が大人でもなければユダヤ系でもなく、どちらかと言わなくても安全な立場にあり、戦争の実体そのものを知らない単なる冒険好きの恵まれた子供だということです。
そしてこの映画は、その純粋な心すらも翻弄し、無視してしまう戦争の虚しさ、愚かさ、無意味さを、鉄砲の弾やら爆撃よりも重く訴える作品です。
戦争のせの字も知らないと言えば、それは現在のこの国日本における多くの人に他なりません。
幾ら歴史の教科書や映画などでナチスとかユダヤとか戦争とかの色々な知識を詰め込んだところで、実体験として戦争を経験していない私達にとって、この映画の純粋な子供目線は、あまりにも優しく、そして重く痛い。
戦争を知らない者は、戦争を知る者から、上からの高圧的でプロパガンダ的な押し付けがましい価値観での教えではなく、同じ目線からの教えが必要なのかもしれません。
そして何かを得ようと思ったら、何かを失うというリスクが伴う。
有刺鉄線の囲いの向こう側にある大きな事実を知ろうと思えば、それまで抱いた夢も、今まで生きてきた中での純粋な価値観さえも、あっけなく葬りさられる可能性すらも孕んでいる。
そんなリスクを覚悟の上で、行動出来るということが如何に強いことなのかということは『シンドラーのリスト』のオスカー・シンドラーに譲るとしまして、この映画は、そんなリスキーな状況に陥る可能性があるということすらも知らない子供なのです。
しかし、子供も大人も演技が素晴らしいです。
決して台詞の多い映画でもないのですが、皆凄まじい目力で、観客に心情を訴えかけてきます。
「目は口ほどにものを言う」とは言いますが、戦時下という極限状態の中でのその目は、あまりにも痛切です。
そして、その瞳の奥にある秘めた思いは、膨張して破裂したら、断末魔の叫びとなって虚しくも重く響き渡る。