「さくら、から、寅へ...」ホノカアボーイ こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)
さくら、から、寅へ...
この作品で、倍賞千恵子が登場した途端、「そうかぁ、もうお婆さんの役をやるんだなあ」と、妙に感慨深いものが胸にこみあげた。「男はつらいよ」シリーズが終わってから、倍賞千恵子はドラマや映画に出演はしていたが、それほど印象に残る役はやってきてはいなかった。それだけに、私の中での倍賞千恵子は、寅さんの妹さくら、で止まっていたのだ。
それだけに、陰の主役と言っていい、この作品の中の倍賞千恵子の演技は、とても爽やかで可愛らしく、主役の若い男優よりもはるかに印象深かったことは、私個人にとってもとても嬉しいものだった。そのせいなのか、この作品の中の倍賞の役柄を見ていると、どこか寅さんを思い出してしまっていた。
この作品の中の倍賞の役は、ハワイ島に移民してきた日本人女性というだけで、あまり人生感は語られてはいない。しかし、ハワイでの一人暮らしの日常が、そのまま寅さんのような気ままな旅に似た、のほほんとしたものとして描かれていたせいで、たとえば、若い日本人男性が寅さんのマドンナのように見えるものだったし、性格もいい加減のようだが憎めない可愛らしさがあるところが、寅さんそのもののように画面から見えてきた。それが、ラストにいたるまでのもの悲しさにも繋がって、私は「男はつらいよ」以来の倍賞久々の名演に出会えた感動をおぼえたのである。
ただ、作品としては、ハワイのゆるやかな時間の中の人間模様、というだけで、特に際立ったものがなかったのは残念にも感じた。それだけに、この作品は、倍賞千恵子を見る映画として記憶されるべき、だと思うのである。
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