「オリジナル以上に個性を際立たせて、ダメ男ぶりをパワーアップ。ストーリーを一段と笑える楽しいものへアレンジしたところは評価できます。」サイドウェイズ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
オリジナル以上に個性を際立たせて、ダメ男ぶりをパワーアップ。ストーリーを一段と笑える楽しいものへアレンジしたところは評価できます。
ダメ男ふたり組のはちゃめちゃな独身卒業旅行の1週間を綴った作品。オリジナル以上に個性を際立たせて、ダメ男ぶりをパワーアップ。ストーリーを一段と笑える楽しいものへアレンジしたところは評価できます。
まずは道雄は、英語教師のくせにヒヤリング能力のたどたどしいのです。そんなところにいかにも頼りにならないダメ男ぶりを感じさせてくれました。
シナリオ・ライターを目指して書き進めていたシナリオが、自分の教え子のライターに名前だけ取られたとき、自暴自棄となってワインをがぶ飲みするところが見物です。
結婚を1週間後に控えた大介。彼のお調子ぶりも半端ではありません。
大介は、雇い主の資産家の令嬢を選んだばかりに尻に敷かれ放し。定期的に携帯で彼女から電話が掛かってくるところは、オリジナル以上の拘束ぶりです。だから独身でいられる間に息抜きがしたいと、日本から道雄を呼び出して、結婚式のワイン選びを名目に、ナンパ旅行を目論んだのも頷けます。道雄の静止も聞かずに、片っ端からナンパしようとする無責任ぶりが凄かったです。
そんなふたりのダメ男にハリウッドが選んだのが、小日向文世と生瀬勝久。もうドンピシャのはまりようです。
但し大介役は、オリジナルではイケメンだったので、ナンパに説得力がありました。ちょっとキモイ大介に、どうしてまんまと口説かれてしまう女性が出てしまうのかが、出来すぎな感じがしました。
大筋で、オリジナルの設定を周到しているものの、大きく違うのが、麻有子の存在。たまたまレストランで知り合ったことから、かつて道雄が片思いした訳ありの相手に変えられています。でも、道雄と同じく凄いワイン通であることは変わっていません。
ただ、麻有子は勤務先のワイナリーが日本進出を計画していて、東京支店の支店長に麻有子を抜擢することを決めていたのです。でも、麻有子は日本に思い出したくない過去があり、日本に帰ることには強いトラウマを抱えていたのです。
しかも、アメリカのソムリエの公的資格に合格して、地元でなんとかワインの仕事を自活して生きていけるメドも立ちました。
麻有子に気がある道雄は、端で見てても、押しが足りません。トラウマなんか気にせず、日本に帰るべきだといっても、一蹴されます。
オリジナルでは、いいムードになり一夜を共にするところまでいくのに、本作の道雄はからしきダメなんですね。
でもワインの話で盛り上がる麻有子と道雄は、いい関係になりつつありました。ところが、麻有子の友人のミナと深い関係を結んだ大介に婚約者がいたことを秘密にしたことがバレて、麻有子は道雄にも大憤慨。オリジナルでもここは同じ展開。
ふたりは断絶して、道雄は前途したようにシナリオでもうまく行かず、ワイナリーでやけ酒を煽ることになります。
ラストは、ミナとの関係をすんなり解消して、結婚式を迎えてしまう大介にガッカリ。 これでは、劇中インパクトがないと自重した道雄のシナリオと代わり映えしないではありませんかねぇ。もっと、修羅場であって欲しかったです。
その道雄のシナリオとは、麻有子に恋した若き日のことを綴った物語でした。ドラマで事実上没になった原稿を大介はもらい受け、こっそりと麻有子に渡してしまっていたというサプライズが秀逸です。
旅の最後の日。思い立って道雄は、麻有子の家に告白に行きますが、そこにはシナリオを読んだ麻有子の道雄への手紙が残されていました。
道雄のアドバイスも受け入れて、東京へと旅だった麻有子。さあて、このあとふたりの関係はどうなっていくことやら。
なかなかハリウッド映画らしい、感動的な終わり方でした。でも、小地蔵的には、ハッピーエンドを強くイメージさせるオリジナルのラストが好きです。
麻有子の日本にいた時代のトラウマが描けていなく、彼女の気持ちがイマイチ掴みかねてしまったところが残念です。
でも、1週間に渡るオトナの寄り道の物語には、一杯に笑えるところとグルメなシーンが満載で楽しめます。オリジナルよりもワイナリーの紹介が丁寧なので、この一本でカリフォルニア・ワインに詳しくなれるし、美しいナパ・バレーには一度旅してみたいと憧れてしまうことでしょう。
本作で知ったことですが、ナパは有数の温泉地帯で、間欠泉が観光名所となっていました。スパに入ったふたりが泥風呂で見せる顔パックが何とも愉快です。
さて、本作では麻有子の気持ちを表す言葉として、二つの代表的な赤ワインの品種が登場します。
麻有子が好むワインとして登場するのが、カベルネ。
カベルネ・ソーヴィニヨンの実は皮が厚く、作られるワインはタンニンを豊富に含むため、長い熟成にも耐えられます。だからワイナリーにとってもリスクが少ない品種。でも香りが豊かで後味が深いが、口の中での味わいには欠けるところがあると言われる。
道雄が麻有子に勧めたのが、ピノ。
ピノ・ノワールは、カベルネとあらゆる部分に於て対照的な品種であり、やや冷涼な気候を好み、栽培には特に神経を使うそうなのです。ピノ・ノワール種を用いて造られるものの代表として、世界で最も高価なワイン、ロマネ・コンティがあります。
適応力がなく、リスクの高い品種だけれど、成功すれば価値がある。麻有子は自分は、取り柄のないカベルネと思っていたけれど、後半でトラウマに神経質になっていて、東京栄転に臆病になっている自分は、ピノだと気付きます。
道雄も麻有子も、生きるのが下手なばかりに、ピノと同じように挑戦するリスクを見失っていたのですね。本作で、ワインにそんなドラマを感じて味わえば、また違ったテイストを感じられることでしょう。