「意味が在るのか、意味が無いのか」運命のボタン 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
意味が在るのか、意味が無いのか
『訳の分からない映画を作る』と巷で評判(?)のリチャード・ケリー監督作品を初鑑賞。
リチャード・マシスンが原作を発表したのは1976年。実際にアメリカの火星探査船が火星への軟着陸と地表の写真撮影を成功させた年だ。
映画の時代設定を現代に置き換えなかったのは、1976年という年が、人智を超えた存在に対する人々の期待と不安が高まった時節だったからだろう。
だが設定だけでなく音楽や映像の質までその年代のドラマっぽく作られているのはどうなんだろうか。
何か意味があるのかと思ったが、作り手が当時のドラマの雰囲気を再現してみたかったという以上の意味は無いように思える。
『作りたいから作った』というのは映画を作る上で大事な理由だと思うが、観客としては少し置いてきぼりを喰らった感じがしなくもない。
それはさておき、ストーリーだ。
主人公の一家に届けられた謎の箱。箱に付いたボタンを押せば100万ドルが手に入り、同時に見ず知らずの誰かが死ぬ……。
このシンプルな設定が、やがて宇宙レベルの壮大なスケールの物語にまで拡大してゆく。
つまる話、『ボタンを押す/押さない』の選択は世界を統べる何やら巨大な人格によって行われる人類選別テストであった訳だが、そこから炙り出されるものは何なのか?
他者をないがしろにして利益を得る人間の愚かさ?
誰かを犠牲にしてでも自分の家族を幸せにしたいという意識?
それとも単に「“他人”は煩わしい」という意識だろうか。
主人公が唐突にボタンを押すあの瞬間、歪んだ足を持つ自分を奇異の目で見つめる“赤の他人”など消えてしまえばいいという意識があったとは考えられないか。
これがサルトルの“他者は地獄”の意味に沿うかどうかは調べてもサッパリ分からなかったが(笑)、周囲の人間全てが煩わしく思える瞬間は誰にでもあるはず。
まぁいずれにせよ気持ちの良い解釈じゃないですね。
様々な要素が散りばめられているようだが、それらに意味があるのか意味がないのか、僕にはイマイチ分からなかった。
あとの解釈は観客に任せるということかしら。
あるいは監督の思い描いた場面を繋ぎ合わせただけで、意味などは無いのかも。
傑作なのか駄作なのか、何とも判断に困る映画なので、スコアもド真ん中の2.5を付けさせてもらった。
だが映画全体を覆うこの緩やかな悪夢のような雰囲気。やみつきになる人もいるに違いない。
<2010/5/15鑑賞>