サーチャーズ2.0 : 映画評論・批評
2009年1月6日更新
2009年1月10日よりアップリンクX、吉祥寺バウスシアター、シネマジャック&ベティほかにてロードショー
気がつくと、いまの世界の構造が浮き彫りに
アレックス・コックスの前作「リベンジャーズ・トラジディ」は復讐の物語だった。復讐を扱ったジョン・フォードの「捜索者(The Searchers)」からタイトルを引用したこの新作では、同じ復讐というテーマがまったく異なるアプローチで掘り下げられていく。
主人公たちの復讐の旅には、9・11やイラク戦争に絡むブラック・ユーモアが散りばめられている。メルは車を所有する余裕もないのに、「正義、石油、復讐」を合言葉にして戦争を支持する。さり気なく挿入される戦死者の遺影や墓地の映像は、戦場で兵士が石油のために命を落とし、主人公たちがやたらとガソリンを食う車で旅していることを示唆する。
前作を象徴していたのは「人を呪わば穴二つ」の諺だった。コックスのシュールレアリストとしての感性が前面に出た新作では、そんな教訓から逸脱した時空が切り開かれる。それぞれにマリファナと抗うつ剤で現実逃避していたメルと娘のデライラは、夢のようにも見える旅のなかで現実に目覚めていく。
夢と現実が交錯し、気づいてみると戦争や政治、石油資本、巨大メディア産業など、主人公を取り巻く世界の構造が浮き彫りになっている。そこにコックスならではのマジックがある。
(大場正明)