私の中のあなた : インタビュー
「ジョンQ/最後の決断」「きみに読む物語」のニック・カサベテス監督が、ジョディ・ピコーの大ヒット小説を映画化した最新作「私の中のあなた」について語ってくれた。(文・構成:編集部)
ニック・カサベテス監督インタビュー
「ただ長生きするより、良い人生を歩むべきだと思うんだ」
いわゆる“お涙頂戴もの”になりがちな難病を扱った作品だが、ニック・カサベテス監督はそういったウェットな部分だけでなく、家族の愛情や生きることの素晴らしさにスポットを当てたという。
「人が病気を患って死んでいく物語を描くとき、僕たちはなぜ生きるのか、何のために生きるのかを問わずにはいられない。人は皆いずれ死んでいくもので、いつかは愛する人を失うだろうし、逆に自分が死を迎える場合は、愛する人を置いていかなければいけない。これは当たり前のことなのだが、僕たちは普段そのことを話そうとせず、見ようともしないんだ。この映画は、子どもの死に対して家族がどう向き合うかがテーマになっていて、それは一見シンプルでありながら、よく見るととても複雑なものなんだ」
重い病を抱えた子どものために、家族はどんな犠牲を強いられるのか? 1人を救うためのドナーとしてもう1人子どもを作ることは、倫理にかなっているのか? 映画は、家族全員の視点であらゆる問題を提示すると同時に、「医学の進歩は本当に人間を幸福にしたのか?」という疑問にもたどり着く。
「人間は必ず死ぬものだし、死に直面する重い病気にかかることもある。そういう状況になったとき、僕らにはいくつか選択肢があり、この映画ではそれを選択する難しさや複雑さを掘り下げている。その答えを2時間で出すのは短すぎるけど、『ただ長生きすることが重要なのか? それとも良い人生を歩むことが大切なのか?』と問われたら、僕は良い人生を選択すべきだと思うんだ」
自らも心臓病の娘を育てた父親である監督の言葉には重みがあり、病気と向き合う本人だけでなく、その家族の心情も繊細に描いている。我が子を生かすためならどんなことも厭わない母サラを演じたのは、初の母親役となるキャメロン・ディアス。監督はなぜ独身で子どももいない彼女にサラ役を託したのだろうか。
「映画監督をやっていて奇妙だと感じるのは、毎回似たような役ばかり選ぶハリウッド女優が多いことだ。同じ演技を見るのは僕にとってとても退屈なんだ。そういう意味で、これまで母親役を演じたことがなかったキャメロンが、思春期の難しい年頃の子どもを持つサラ役を引き受けてくれたのは本当に嬉しかったよ。僕がサラというキャラクターに求めたのは“強さ”だ。サラは他人が自分をどう見るかなどまったく気にせず、『私の子どもは死にかけてなどいない』と言い続ける強い人なんだ。そのことは僕が説明するまでもなく、キャメロンはすぐに理解してくれたよ。本当に彼女は仕事熱心で、仕事ができたことを誇りに思うよ」
アナ役のアビゲイル・ブレスリン、白血病の姉・ケイトを演じたソフィア・バジリーバという若い女優たちの熱演も光る。「演技の質は俳優がキャラクターにどれだけ入り込んでいるかによると思う。10代の彼らはものすごく感受性が強く、まだ若いから死は理解しにくいことだけど、だからこそ死に直面したときはいろいろなことを感じ、表現することができるんだ。とはいえ、この映画が成功したのは彼女たちの素晴らしい才能があったからで、僕はすごくラッキーだったね」
ケイトが同じ病と闘う少年テイラーと恋に落ちるエピソードは、暗くなりがちな物語に瑞々しい輝きをもたらす。「一般的な映画の構成は、幸せな時期があった後に不幸な出来事が起こると思うんだけど、この映画は逆で、病気という不幸な要素が最初からある中で、幸せな恋が訪れるんだ。こうすることで、たとえ病を患っていても病気だけが人生じゃないと示したかった」と話す監督は、次のような撮影エピソードも明かしてくれた。
「当時15歳だったソフィアは、とても厳しいロシア人の家庭に育ったから、それまで一度も男の子とキスしたことがなかったんだ。だから劇中のキスシーンが彼女のファーストキスだったんだけど、カメラが何台も回っている上に20人以上のスタッフが見ていたので、彼女は可哀想なぐらい緊張してしまってね。でもその姿がすごく可愛かったよ(笑)。相手役のトーマスは年上だったからリードしてあげてたんだけど、それも見ていて微笑ましかったね。あの後、2人はプライベートでも良い友達になったらしい。そういうやりとりを見ていると、つくづく映画監督は面白い職業だと思うよ(笑)」
困難に直面したある家族の絆を、シリアスになりすぎない描写で丁寧に描き出した本作だが、全米公開時のランキングは初登場5位。同じ週に初登場首位スタートを切った「トランスフォーマー/リベンジ」と比べると、週末3日間の興収は約10分の1程度で、決して大ヒットを記録したわけではなかった。監督は「これがアメリカにおけるフェアな結果だ」と語る。
「アメリカ人は細やかな感性であるフリをする傾向があるんだけど、実際この映画のようなエモーショナルな作品を見ると、『なんだ、お涙頂戴ものじゃないか』と何も感じないよう必死になる。そして、殴ったり蹴ったりするアクション映画や、滑って転んで笑いを取るようなコメディ映画を見るんだ。とはいえ、この映画の内容からして皆が見たくなるような話だとは思わないし、僕は映画監督としてストーリーを語ることができるだけで十分なんだ。僕はこれからも映画を作り、見に来てくれる人は来るし、来ない人は来ないだろう。劇場に空席があっても仕方ない。でもまあ、次はパイを投げつける映画でも撮ってみようかな(笑)」