劇場公開日 2009年4月18日

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「ラスト20分が減点、でも抜群に面白い!」スラムドッグ$ミリオネア こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ラスト20分が減点、でも抜群に面白い!

2009年5月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

この作品がアカデミー賞に輝いたのは、構成力と演出力の高さの勝利たろう。クイズ番組からどんなストーリー展開をするのかと思って見ると、クイズの問題から、スラムに生まれた主人公の生き様、インドの貧民たちの生活ぶりを描くという、見事な構成で作品全体を組み立てていたのには驚かされた。その構成の面白さに惹かれて、偶然性が強すぎるというシナリオの欠点も全く気にならなかったのは、この作品がもつマジックに自分が翻弄されたからだと思う。映画は、観客をいかに騙せるか、が生命線でもあるので、その意味では、これほど見事に騙された作品は近頃珍しいと思う。

 さらに、その見事な構成を展開させたのは、監督ダニーボイルの演出力によるものだ。この監督は、「トレインスポティング」以来、疾走感ある演出で定評があったが、スラムの子どもたちから成長した主人公まで、今回もスクリーン狭しと疾走させるテンポの早い演出は、爽快さすらおぼえるほどだ。以前は自分の演出に振り回されていたようにも感じたダニー・ボイルだったが、構成がきちんとされているシナリオによって映画全体が落ち着いてきているのも、好感がもてた。

 ただ、ラスト20分の描き方は、ちょっと納得できない。一度は、主人公が不正をしたのではと報道されているのなら、あれほど民衆が熱狂するのはありえないだろう。やっかみもあれば疑いの目で見ている者も多いのと、わざわざ盛り上げるような演出をしなくても、充分に観客はラストの展開にも期待しているのだから、画面に熱狂する民衆などいれず、観ている側をもっと興奮させる演出がほしかった。
 しかし、この作品のエンタテイメント性の高さは、充分にアカデミー賞ものだと思う。これはハリウッド製作ではないが、ハリウッドからもっと、このような作品が生まれれは、映画興行はもっと盛り上がるものになるだろう。

こもねこ