「悲しくも心温まる最後の決断に涙」グラン・トリノ kakao_2rises4さんの映画レビュー(感想・評価)
悲しくも心温まる最後の決断に涙
正直に言ってクリント・イーストウッドの作品はこれが初鑑賞。『ダーティハリー』はおろか『許されざる者』や『ミリオンダラー・ベイビー』、『硫黄島からの手紙』も観ていなかった。なのでよく評判に聞く「クリント・イーストウッドの集大成」的な良さを感じる事は、永遠に出来ないだろう。でもこの映画が奥の深い、素晴らしい作品だという事は理解できた。
まず明暗の具合が素晴らしい。作品の質に深みと味わいを与えている。そして全体の構成は本当に無駄が無い。例えば神父に懺悔に来るよう言われるが、懺悔を断固として拒否し続ける。これは、主人公ウォルトが朝鮮戦争で犯した罪は懺悔なんかで拭えないくらい大きなものであるという事の裏付けととれる。また、モン族と関わるのは、彼らがウォルトの殺したアジア人に似た種族だから。つまり彼らと関わり経験や知識を伝えることが、救いと償いを意味するのだろう。この辺りがとても巧みである。そして、本作は「罪」や「生と死」を強く意識しており、最後の決断はその象徴である。ウォルトは、自身の残り少ない命をチンピラ共への報復に使う。彼は、死ぬことよりも生きて自分が犯した罪を悔いる方がよっぽど苦しいことを知っている。タオに自身の苦しい経験をさせずに、且つチンピラ共に最大限の苦しみを与える為の唯一の手段が自分を殺させる事なのだ。命懸けのけじめによって人生において非常に大切な事を教えてくれたラストに感動せずにはいられない。同時に朝鮮戦争で自身が犯した罪へのけじめも意味していたと思う。この残り約25分の展開はとても奥が深く、悲しくも美しい展開である。ちなみに地味ではあるが、この25分の中で神父がチンピラ共に対して正直に憎みビールを飲む姿は結構お気に入りのシーン。最後でタオに「グラン・トリノ」を譲るのは恐らくタオへの感謝の気持ちなのだろう。