「名人芸の演出と究極の格好良さ」グラン・トリノ ピーハイさんの映画レビュー(感想・評価)
名人芸の演出と究極の格好良さ
主役のキャラクターとしたら、有り得ないような偏屈さだ。しかし、頑迷というのとも違う。「しつこい」と毛嫌いしている筈の、何度拒絶されてもめげずに説得を続ける神父の話を、結局は真摯に耳を傾けていた酒場のシーンが証明しているだろう。
彼の偏屈さには筋が通っているのだ。ウォルトのこだわり、そのひとつひとつに私は共感を覚えた。人種差別と汚いののしりのオンパレードなのだが、だからだろうか、突き抜けた人物造型が爽快でもあった。
彼の偏屈さの最大の理由は、朝鮮戦争での罪悪感であり「自分を許せない」ことにあるのだ。自分を許せない人生は不幸だ。体調も悪く、人生の終焉が近いことを知った「生よりも死に詳しい」ウォルトが次第にタオ一家との交流を通じて心を開いていく様子は、何とも言えない優しさに満ちていて感動する。
この展開を先が読めるなんて言ってはいけない。その人物造形の確かさ、こんなに笑って良いのかと思うほどの洒落た会話の数々、心温まるエピソードの数々を堪能すべきなのだ。
そう、素直に、どれだけ笑えるか、これがこの映画を楽しめるバロメータだろう。特に床屋でタオに「男らしい会話」を教えるシーンは最高だ。
それにしてもクリント・イーストウッドは格好良い。
まるで神から最後の祝福を受けたかのような幸せを守るために、彼が最後に取った行動は、それこそ、「史上最も優しい衝撃のラスト」に相応しい。いかに今までの人生を生きてきたか、彼は見事に、それを証明してみせる。
是非、この深い余韻をたくさんの人に味わって貰いたい。
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