ウルトラミラクルラブストーリー : 映画評論・批評
2009年6月2日更新
2009年6月6日よりユーロスペースほかにてロードショー
映画の持つ根源的な力を呼び覚ます凶暴なラブストーリー
横浜聡子監督のメジャーデビュー作でまず印象に残るのは、身体へのこだわりだ。主人公の陽人は、生身の身体のめまぐるしい運動や身体と連動した津軽弁で、ストーリーに頼ることなく、強烈に自己主張する。「ジャーマン+雨」のヒロインは“ゴリラーマン”と呼ばれていたが、陽人は、畑に埋もれてキャベツにもなれば、森を駆け回って熊にもなる。
この映画には様々な境界が巧妙に埋め込まれている。青森と東京、生者と死者、人間と自然、子供と大人。さらに、町子が頼る霊媒師と陽人が世話になる開業医との対比からも、精神と肉体の境界が浮かび上がる。陽人はそんな境界に揺さぶりをかけ、世界を引っ掻き回すトリックスターになる。
だが彼は、なるべくしてトリックスターになるわけではない。たとえば、町子と霊媒師の会話を盗み聞きしたり、畑に埋もれた陽人の頭に農薬を振り撒いたりする子供たちのいたずらがなければ、陽人と死者が結びつくことも、農薬と進化が結びつくこともなかった。
この映画では、農薬散布のヘリが不穏な空気を醸しだす冒頭から、じわじわと混沌が広がっていく。映画の持つ根源的な力を呼び覚ますような凶暴なラブストーリーは、混沌から生み出されているのだ。
(大場正明)