「未来の果てだからこそ魅力にさせる人間の未練たらしさ」ミスター・ノーバディ 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
未来の果てだからこそ魅力にさせる人間の未練たらしさ
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人間が不死となる前の貴重な存在である彼が、力を振り絞って自分の人生を振り返り、過去を語り出していくが、年が年だけに記憶が曖昧で、真実はヤブの奥へ迷い込んでしまう一風変わったSF映画。
あの時、Aをチョイスしたらこうなり、Bを選べば人生はこう変わっていたかもしれないという選択が幾重にも分かれながら進む展開はif系映画の王道を踏襲しながら、未来SFと掛け合わせた味わいは斬新で、難解さは意外と薄く、嗜みやすい面白さだった。
全ての欲望を厳しく統制する未来社会だからこそ、彼の単純な未練たらしいためらいや欲情が活き活きと魅力的に共感できる。
私も死ぬ間際になるとベッド上でこんな追想に没頭しながら、あの世へ旅立つだろう。
死にかけた他人の今と過去に随時、密着する周囲の了見は『トゥルーマン・ショー』より残酷な生中継だが、未来の社会の無機質な呼吸と、主人公の人間っぽい等身大の記憶との温度差が陰湿な切り口を和らげ、皮肉な人情噺という奇妙なバランスを築き、最後まで飽きさせない。
観終えた後、自分の職場にも大勢のニモ氏が生活している事に気付く。
身近なニモ氏達の「もしも、あの時、あの選択を…」に出逢った時、私はどんな温度で見守ってあげれば良いのだろう?
答えは未来に置き去りにして、最後に短歌を一首
『夢の岐路 結び目を踏む 幾重にも 終着駅(ゴール)をなぞり 眩しさを問ふ』
by全竜
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