「心が温まる映画。アニメーションとはかくあるべし!」マイマイ新子と千年の魔法 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
心が温まる映画。アニメーションとはかくあるべし!
昭和30年代の山口県を舞台に、空想好きな女の子、新子と内気な転校生、貴伊子の日常を描いたアニメーション。
『この世界の片隅に』を鑑賞した結果、片渕須直という監督の才能に惚れ込んでしまいました。なので、片渕須直監督の前作である『マイマイ新子』も鑑賞してみることに。
本作を観て、片渕須直は素晴らしいアニメ監督であると再認識。
粗雑濫造が横行するアニメ界において、このような大人から子供まで楽しめ、感動できる作品を作ってくれる監督が正当に評価されていることは、いちアニメファンとして大変嬉しく思います!
本作は『この世界の片隅に』よりも前の作品です。しかし、昭和20年頃が舞台だった『この世界の〜』に対し、本作は昭和30年代が舞台となっているため、むしろこの作品を後に見たことによって「あの戦争の時代からわずか10年程で、こんな平和な時代になったんだなぁ」としみじみ思い、本作に愛着が湧きました。
絵の感じは完全にジブリ風です。
元々高畑・宮崎コンビに従事していた方なので、ある意味では正当な絵柄と言えるかと思います。
全体の雰囲気も『となりのトトロ』風。田舎に引越してくる少女、迷子になる妹など、どこかで見たことがあるシーンだなと思わざるを得ません。
竹を割ったような性格の新子は見ていて楽しいし、新子と貴伊子が交流を深めていく過程はほのぼのしますが、正直前半は退屈。特に事件が起こるわけでもなく、田舎サイコー!的な描写が続きます。
しかし、後半になるにつれて、物語は思いもしていなかった展開に発展していきます。
少年・少女のやり切れない思いの爆発。1000年の時を隔て、不思議な交わりをする少女の記憶。非情な現実に面しても、心の思うままに世界を創造することこそがそれを乗り越える武器になるというメッセージ。
渦巻くエモーショナルな展開の連続に、知らずと涙が頬を伝っていました。
暗闇の中で新子が貴伊子に伝える本当にささやかな告白が、作品をビシッと締めてくれます。
牧歌的でありながら、残酷な現実がたしかに存在する世界。子供時代が有限であることを伝え、その中で育まれるイマジネーションこそ、現実世界の荒波を渡っていく船となり得ることを教えてくれる美しい作品です。
子供向けな雰囲気ながら、文学的な作品構造も有しており、かなり歯ごたえのある映画でした。