イングロリアス・バスターズ : 特集
「イングロリアス・バスターズ」撮影レポート その2
いよいよ映画中のプロパガンダ映画「国家の誇り」の映写が始まる。これはクエンティンに任されて、イーライが監督と編集を手がけたものだ。
「ポーランドとの国境があるゲルリッツという町で、たった2日間で130ショットも撮ったんだよ! 6人のスタントマンと25人のエキストラを使って、トラックも1台しかないから、いろんなアングルから撮って何台もあるように見せた。ドバッと血の出るシーンは時代考証的にはないんだろうけど、クエンティンが1カットだけ許してくれたんだ。僕らしさもやっぱり出したいもんね(笑)。生粋のユダヤ人としてはナチスのプロパガンダを撮るってシュールな体験だったけど、この映画はヒトラーが『最高傑作だ』って言う映画だから、僕はクエンティンにそう感じてもらわなきゃって必死だった。彼は大満足してくれたよ。僕が早撮りしたおかげで、ダニエル・ブリュールを1日多く使えたしね」
現場では時間のない中、スタッフとキャストは寝る間も惜しんでがんばっている。つい、ウトウト居眠りをしてしまう人もちらほら。しかし、それは恥ずかしい結果を呼ぶことに。居眠りをしたら、ビッグ・ジェリーと呼ばれる大きな男性器の模型を寝顔にくっつけられて写真を撮られ、張り出されるという決まりがあったのだ! こんなお遊びも、クエンティンの現場ならではだ。
休憩時間には、プロダクション・デザイナーのデビッド・ワスコがアート部門を案内してくれる。
「たった8週間で、冒頭の農家から居酒屋、映画館まで20のセットを建て、35のロケーションを用意したんだよ。我ながら神業だよね。映画館の円い窓は『美貌の友』から、ロビーの階段と天井の扇風機は『アラブの陰謀』から、クエンティンがイメージしたものでね。こんなふうに、彼はいつも具体的な映画を出してくるから、仕事がしやすいんだ。クエンティンの好きなロサンゼルスの映画館や、ロケハン中に見つけた映画館からもインスピレーションを受けているよ」
命がけの爆発シーンを準備していたのは、特殊メイクのグレッグ・ニコテロ。バスターズに頭皮をはがされるナチ兵士の頭を作り、「スカルピング」講習を行った彼だが、意外にもいちばん面白かったのは「ヒトラーやゲッベルスのメイク」だったという。
「血だらけの人体エフェクトもかなりやったが、実在の人物らしく見せるためのメイクでは、役者の能力を高める役割も果たせたと思う。だから、すごくやりがいがあったんだ」
この日は、回されたフィルムが1000ロールを迎えた記念の日。シャンパンが振る舞われ、ちょっとしたお祝いに。ステージでは、サービス精神旺盛なイーライがストリップを始めている(両親の前なのに!)。
クエンティンは満足そうだ。「この脚本を書き終わったときは、すごく誇りに思ったもんだよ。それを映画として作るとなると、変更が必要になるところもあったけど、すごくいい方向に向かってると思う。これがうまくいったら最高さ。カンヌに行くぞー!」