劇場公開日 2009年11月20日

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「戦争アクションがなくて、史実もねじ曲げているところで、好みが分かれる作品ですね。」イングロリアス・バスターズ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

2.5戦争アクションがなくて、史実もねじ曲げているところで、好みが分かれる作品ですね。

2009年11月22日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 戦争映画なのに、戦闘シーンが殆どなく、ヒットラー暗殺計画を実行しようとするのに、その工作の過程で描かれるべきハラハラドキドキするようなバスターズとナチスの駆け引きもなく、余りにたやすく作戦を遂行してしまうところに白けてしまいました。
 本作では、全編に渡って大胆に途中のシークエンスを省略する手法になっていて、スピード感はあるものの、都合良過ぎるように見えてしまうのです。
 家族を虐殺されたションシャナが再登場するのは3年後の3章に入ってから。その時彼女はパリで映画館の館主として登場するのです。放浪のユダヤ人がナチスの占領下のフランスでいったいどのようなプロセスで館主となったのかは明かされませんでした。
 またバスターズの戦闘的な活躍も紹介されず、2章の終わりには、すでに噂の部隊としてナチスから恐れられる存在となっていたのです。

 『ワルキューレ』のような展開を期待していった人には、ガッカリするでしょう。もちろん数あるヒトラー暗殺もののなかで、唯一予想を裏切る本作ならではの面白さはあります。どれもこれも、暗殺ものが結末に近づくとつまらなくなるのは、観客がヒトラーの結末を知りすぎているからです。
 だからといって歴史を勝手にねじ曲げていいものでしょうか。いえいえ、いいんですよ、創作であったとしても。でも創作ならば真実以上に、ホントらしく描かなくてはいけません。
 常に暗殺の危険をはらんでいたヒトラーが、レジスタンスがうようよしているパリの小劇場に足を運ぶまでの過程とラストの展開は、余りに都合良すぎます。
 まぁ、バスターズによって処刑され、最後に虐殺されるのがナチスになっているのが史実と逆になって、痛快ではあれます。

 普通の映画ファンのの感覚では、評価は辛くなってしまいます。でも、映画通を自認されているような方にとって、タランティーノが本作に仕掛けたプライドやオマージュが読み取れるだけに、独りほくそ笑むような作品でしょう。
 残忍だけどイカしているバスターズ軍団の描き方なんて、マカロニウェスタンそっくり。冒頭からして西部劇『アラモ』の主題歌だし、殺したナチスの頭を皮を剥ぐスプラッターな行為は、西部劇の世界だぁ!

 B級映画の雄として、アンチハリウッドの心意気も健在。ブラビを主演させて、あたかもハリウッド戦争アクションに見せかけているものの、その他のキャストにはヨーロッバで活躍する無名な俳優を多数起用。セリフの多くも英語だけのシーンは少なく、4カ国語が入り乱れています。
 実質的にはヨーロッパ映画としてしまうことで、ハリウッドだけが映画じゃないぞというタランティーノの叫びが聞こえてきそうです。

 さらにラストシーンの劇場で流されるショシャナがナチスに復讐を語りかける映像には、映画が武器となる展開を通じて、映画が持つ力をアピールしているのだと感じました。
 ところで本作のブラビの誇張気味の演技は、シリアスを越えた可笑しさを感じさせてくれます。『バーン・アフター・リーディング』など、同様なキャラでブラビが引っ張りだこなのも、単なる二枚目俳優で良しとしない彼の探求心のなさる業ではないでしょうか。
 あと国際的には無名だけれど、ドイツのお茶の間では、ドラマ俳優として親しまれているクリストフ・ヴァルツのランダ大佐役はなかなかの怪演ですね。シャーロック・ホームズばりに、巨大なパイプをゆらゆらさせて、名探偵を気取っているところや、条件によっては敵方に内通してしまいそうな身の軽さをよく演じていました。
 彼が裏の主役といってもいいくらいです。

 ということで好みが分かれる作品。23日までは、全額返金もやっているので、とりあえず3章まで見てみてはいかがでしょう。今日試してみたら本当に返金されました。

流山の小地蔵