「10年に1本の出会い」ウォッチメン Natsukiさんの映画レビュー(感想・評価)
10年に1本の出会い
やはりザック・スナイダー監督はやってくれた
文句なしの とんでもない傑作の誕生である
あまりの衝撃に ありきたりな言葉しか出ないけど
オープニングからエンディングまでこんなに興奮したのは
『マグノリア』以来で 2時間40分が【一瞬】だった
あと2時間以上長くても良いくらいだ
原作はアメコミなのに
タイム誌が選ぶ1920年代以降の【小説】ベスト100に
《漫画なのに》選ばれた
そして
SF界のアカデミー賞ともいうべき【ヒューゴー賞】も
《漫画で唯一》選ばれている
そして 当然のように映画化が進む
しかし 複雑な構成のストーリー展開やビジュアルのため
当時から映画化不可能と言われ続け
数々の名監督が企画段階で諦め 去っていった
しかし ついに 映画化に成功した
原作以上の【恐ろしさ】と【説得力】が存在する完成度
もはやアメコミの映画化などという次元ではなくて
この先 永遠に語り継がれるであろう
極上の【芸術作品】として完成した
ボブ・ディランの『時代は変わる』が流れるわずか数分の間に
《この作品の中だけに存在する50~80年代あたりのアメリカ史》と
《同時期に活躍したこの世界でのヒーローの歴史》を次から次に見せる
【オープニングタイトル】のズバ抜けた素晴らしさで確信した
この世界は ソ連とアメリカが【核ミサイルの脅威】により
緊迫した睨み合いをしている時代の真っ只中から始まる
ニクソン発案の【ヒーローの活動を禁止する条例】により
今やヒーローがヒーローを辞め一般人に紛れて生活している世界
この『Mr.インクレディブル』にも多大な影響を与えた
独創的な設定が後半に より活きてくる
アポロ計画 ニクソン ポップアートの巨匠アンディ・ウォーホルに始まり
冷戦 ベトナム戦争 ケネディ暗殺 サイモン&ガーファンクル スマイルマーク
博士の異常な愛情 カストロ デヴィット・ボウイ 地獄の黙示録 ・・・
そんな感じで 一度の鑑賞ではとても気付かない程の
現実とリンクするキーワードが絶え間なく映し出されるので
思いっきり知的好奇心を刺激されまくる
パラレルワールド上に【あの時代】が完璧に凝縮されている
フィルムノワール的な【暗黒サスペンス・スリラー】テイストが醸し出す
全編まったく目を逸らす事が出来ない【張り詰めた緊張感】と
『300』以上にスローモーションを多用した 心底カッコ良すぎるアクション
そして 見た事もない【驚異のビジュアル】に満ちていて
驚きの連鎖が途切れる事が全くない
ここで書く事は出来ないが
クライマックスのウォッチメン達に迫られる【決断】や展開には
ド肝を抜かれて【唖然】としてしまった
しかし 【過度な暴力描写】と【時間軸の前後する編集】に
何も知らずに観た人は大いに混乱するだろう
目を背けたくなる様な
『シンシティ』どころじゃないスプラッターな場面もそうだが
【善と悪】の概念を《脳天から打ち砕く》展開は
100%完全に大人向けの 飛び切りダークなエンターティメントだ
《今までのアメコミ・ヒーロー物と勘違いして
家族では決して観に行かないように》
過去のアメコミ映画が全て【優等生】に見えてしまう程
この作品は《核弾頭級》の驚異だ
《ロールシャッハ》のハードボイルド的カッチョ良さは『許されざる者』の
クリント・イーストウッド的で素晴らしいし
ラストの彼の意外な運命がサプライズすぎる・・・
《Dr.マンハッタン》の超人になったキッカケの悲劇さと
日々【人間性】を失い続ける悲しい運命に号泣・・・
《ナイトオウル2世》の【今やただの中年】からの
【Mrインクレディブル】的な復活っぷりに激しく燃える・・・
(ナイトオウルの【バットマン】的コスチュ-ムの防寒バージョンも絶品)
《シルクスペクター2世》の母子によるヒーローの伝承という斬新な設定と
逃れられない皮肉な運命とコスチュームに激しく萌える・・・
《オジマンディアス》の完璧な容姿と地位と強さに圧倒され
弾丸をも避ける素早さに久々に興奮・・・
エレベーターから刺客が現れる場面の
【アクションとスローモーションとCG】の見事な融合は一番の名場面
《コメディアン》の凶暴さと節操の無さとネーミングは
ジョーカーにも通じつつ アメリカという国の象徴か・・・
彼がベトナムでとる行動には絶句させられるが
彼こそが現実社会での【必要悪の権化】なのか・・・
『ソードフィッシュ』のトラボルタの役にもかなりリンクしている
とにかく
登場人物の過去と現在を交互に見せる展開や
NYを破滅から救う為に一致団結するヒーロー達という設定は
『LOST』や『HEROES』にも多大な影響を与えたのは明白で
あえて大げさな言い方をすると
【ヒーロー版『マグノリア』】と言っても良いくらいの人間ドラマがあり
【裏『フォレストガンプ』】的なアメリカ史との巧みなリンクがある世界
【最もダークな『ダークナイト』】と言えるくらいに
《正義と悪》の定義を考えさせられるテーマが根底にある
目の前の《悪》は 世界レベルで見ても《悪》なのか・・・?
自分達の《正義》は ただの【憎しみ】から生まれた
個人的なレベルの感情に過ぎないのではないか・・・?
何を基準に《善と悪》の境界線を引き
それを誰が判断し 誰が裁くべきなのか・・・?
そして【監視者を監視するのは誰だ?】
ある事件をキッカケに 神は存在しないと悟ったロールシャッハは
《すべては【人間】の仕業だ》とつぶやいた
その彼が【神に最も近づいた男】Dr.マンハッタンと向かい合うラスト・・・
あの意外な展開の果ての【裁き】が 妙に現実的で苦い
おかげで今も この先もずっと 絶対に忘れられない作品になった
追記:
DVDをゲットして 原作も完全に読んで 再び鑑賞
いやぁ~ やっぱり傑作
観れば観るホド完璧な作品だった
1985年を舞台とし 原作は1986年から出版されている
初代ナイトオウルの殺害シーンや 劇中漫画や 劇中自伝など
原作からカットされた要素は多々あるけど
映画は全く物足りなさを感じない
むしろ映画版で追加された要素がとにかくスゴく良い
ボブ・ディランの流れるオープニングクレジットに凝縮された
『ゴッドファーザー』や『グッドフェローズ』的な数々の死体発見
【ディスコ54】【アンディ・ウォーホル】【B-29】【ケネディ暗殺】
【アポロ月面着陸】【ミニッツメンの末路】・・・などなど
クライマックスの【脅威】も遺伝子操作で生み出された巨大タコが
映画版では○○になっている しかし映画の方がより効果的
かつ現実的でシビアで とにかく恐ろしい
【核戦争の危機】が迫る緊迫した中で物語は展開し
ラストで黒幕がアメリカとソビエトの【共通の敵】を創造し
【NYで】多大な犠牲を出しながらも 無理やりに和解させ
平和へと導くという卑劣な【やり口】は 皮肉にも
【9.11】の時のアメリカと全く同じ手口だ
劇中で遠景に【ワールドトレードセンター】が意味ありげに
何度も登場する事からしても 映画版は9.11を
意識しているのは間違いない
これほど似通った筋書きが1986年に描かれていた事も
驚きだし どう考えてもオーバーラップしてしまう
しかし その驚きの展開を見せるクライマックスこそが
現実であり 実際にNYで起こった事だという事実
フィクションを越えた恐ろしい現実を経験した現代に
80年代のアメコミを映画化する意味がそこにある
【善と悪】の概念を《脳天から打ち砕く》展開
そんな結末に混乱するし 考えさせられた
映画版『ミスト』にも似た後味の悪さとテーマ
こんな作品が20年も前に描かれていた事で
改めて『ウォッチメン』という作品の【深さと重さ】を感じた