「とてもよく出来たハードボイルドのアクション映画」ハート・ロッカー mac-inさんの映画レビュー(感想・評価)
とてもよく出来たハードボイルドのアクション映画
2009年のアカデミー賞の作品賞、監督賞など6部門を受賞した作品。
2004年のイラク・バグダッド郊外で、米軍の爆弾処理班の活動を描いている。
とてもよく出来たハードボイルドのアクション映画の傑作だと思う。ただ、アカデミー賞を取る作品かと言われれば、?というのが正直な気持ち。
主人公が、ジェレミー・レナーで、ラッセル・クロウを初めて見たときのような、魅力のある役者だし、出て来る役者も無名ながらよくハマっている。映画的にはとても面白い。
アクション映画としてみたら最高の映画だが、こと現実のことを描いているということを考えると、「映画」にのめりこみすぎなのが気になる。
実際の兵士から、事実と違うと抗議があったとか。
それは、この映画を見れば当然である。まさに映画的効果を狙った人物造型。かなり人工的に思える。例えば最後に腿を撃たれて帰国する兵士が、あんなに主人公を罵るか?また彼自身の心理描写も単純に思える。作り手の想像の範囲を超えていない。様々の事例を合わせた典型なのかもしれないが、ちょっと浅い。軍医にいたっては、ありえない、と素人の目でも思える。患者である兵士に「あんたは現場に立ってない」と反論され、それで現場同行を申し出るなんて、普通考えられない。案の定軍医は爆死してしまう。下手な偽善が命を落とす典型として。と、よく見るとかなりウソ臭い。主人公にいたっては、ラストでは、カッコよく登場する。(映画的には最高なんだけど‥)
この監督にとって、アクション映画の設定として「美味しい」現実が、イラクの実態だったのだろう。現実にある話を、リアルに臨場感たっぷりに描けば、それだけで「反戦」映画になるという確信のもとに、彼女(キャスリン・ビグロー監督)は嬉々としてアクション映画を撮っているように思える。
結局、今のイラクの現状や米国兵士の苦悩より、アクション映画を描きたかったと思うしかない映画である。それであれば、すこし現実から距離を置いて描くのがスジでは?と思うのだが。
「戦争は麻薬」という言葉がこの映画の冒頭に出てくるが、「戦争」だけでなく、やはり「映画」も「麻薬」なのだ。