ノーボーイズ,ノークライ : 映画評論・批評
2009年8月25日更新
2009年8月22日よりシネマライズほかにてロードショー
かけがえのない出逢いが温かい気持ちにさせてくれる
妻夫木聡とハ・ジョンウの共演だけでもそそられるのに、脚本は韓国側からラブコールを受けた渡辺あや。人の心の機微を描くことには定評のある人気脚本家は、日韓共作の男臭いドラマでも不遇の人生に鬱屈を抱えて生きる闇社会の下っ端2人の間に生まれる絆を、リアルに、でも、清々しく描き出して期待以上。
しかも、ジョンウがすごい!「チェイサー」の無慈悲な殺人鬼とは打って変わった茫洋ぶりだけでも驚愕だが、その奥に次第に浮かびあがらせる哀しみや優しさ。妻夫木もまた、邦画にありがちな人気俳優のサービスショット的なアップなど一切ないなかで、あくまでひとりの演技者として、背負った重荷から逃げ出さない青年の苛立ちも優しさも体現している。爽やかな笑顔の国民的人気俳優の底知れない演技力。それに気づいた瞬間から、才能と才能によって生まれる化学反応を目の当たりにしている興奮を抑えられなくなるはず。
それも、キム・ヨンナム監督はじめ、スタッフによる韓国映画らしい骨太な演出と、チンピラたちの人生に人魚というファンタジックなモチーフを違和感なく絡めた繊細な脚本があればこそ。物語はタフでも、人と人とのかけがえのない出逢いが温かい気持ちにさせてくれる傑作。ラストシーンの台詞に痺れる!
(杉谷伸子)