「やはり巨匠魅せてくれる!、しかし切ないな~人の欲望」その土曜日、7時58分 Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
やはり巨匠魅せてくれる!、しかし切ないな~人の欲望
「セルピコ」「狼たちの午後」で大都会NYの闇・男臭いハードな世界と、常に社会の闇の根底にある、人間の欲にまみれた心の闇の部分にフォーカスした作品を描き出し、社会派の映画を多数撮らせたら彼に勝る監督はいないと言う様に、いつもパワフルにあえて人間の弱さを描き続けてきた巨匠シドニー・ルメットの遺作となる本作、「その土曜日」は80歳を過ぎた彼が今も健在なりと最後の一吠えをかましてくれた力強い作品であったが、今回も彼の撮り上げたテーマは重く、正直、後味の悪―い映画を最後に彼も人生の幕を引いた。
しかし、これこそ、シドニー・ルメットらしい最後の映画であった気がする。
金に行き詰った息子たちが兄弟で、親の経営する宝石店へ強盗計画を企てると言う何とも、形容しがたい気分の悪くなるストーリーだ。
しかし、その事件の起こる背景には、一見上手く生活を営んでいるかのように見える家族の中でも、その一皮を剥ぐとバックリと家族の中に巣食う心の闇に問題の発覚する因子が隠れ潜んでいて、しかも、人間は中々その危険因子を知ってか、知らずにか、事が大きく表面化して来ないと、解決策を講じようとしないと言う事を警告するように、人生のアクシデントと言う火災も、初期消火をしないで怠ると全焼し人生そのものがふいになると言わんばかりの作品であった。
彼は常に心の弱さ、闇の部分にこそ人間の本質が有ると言っているかのようである。
愛するが故に、過度な期待を要求する親のプレッシャーに潰される長男をフィリップシーモア・ホフマンが怪演している。そして気弱で負け犬の弟をイーサン・ホークが演じているので、この映画は演技派揃いで、緊迫感はたっぷりと楽しめるし、事件へと向かう人々の心理の前後が上手く浮き彫りにされていくのだ。
よく昔から1頭の馬が狂うと千頭の馬が狂うと言われる様に、少しの誤算が徐々に大事へと広がって行くプロセスが細かく描かれていくのだ。
画面構成や話の展開などやや古めかしい感じもするが、しかし的確に人間の本性の1面を容赦なく描き出す。観て快感は得られないけれども、これも映画に於ける大切な1要素であると思う。
最後に息子を自ら殺害しなければならなくなった父親の心境はどれ程過酷なものであるのか、想像するだけで寒気がする。
80歳を過ぎたシドニー・ルメットは一体この映画をどの様な想いで撮影したのだろうか?
その事を想うと、心が痛む。
いつの時代も、人が完璧に生きる事は至難の業で、難しくあるが、それでも毎日明日へと向かい、日々ベストを尽くし、努力を惜しまず生きていかなければならない事、愛する家族を想ってのためである、しかしいつの時代でもそうであるように、親が子供を愛する程には、子供は親の気持ちを理解出来ないことの切なさが、聞こえてくるようだった。
この映画は、やはりシドニー・ルメット出なければ描く事が出来なかった作品だと感じたのだ、心のタケは言葉にするのは例え難しくとも、愛を伝える事は最も大切だと痛感した!