「なかなかの迫力のある演出だが、主人公の存在感は薄め」パブリック・エネミーズ Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
なかなかの迫力のある演出だが、主人公の存在感は薄め
総合75点 ( ストーリー:70点|キャスト:75点|演出:80点|ビジュアル:80点|音楽:65点 )
この作品では主人公側からの立場だけで物語を進めるのではなくて追う側の立場もしっかりと描くことによって、犯罪者を称賛するのではなくて中立的な立場で犯罪者と司法の戦いを見せてくれる。似たような人物が主人公の「俺たちに明日はない」は、無軌道に生きる凶悪犯罪者である彼らをかっこよく描いている気がしてどうにも好きになれなかった。あれから数十年が経過して制作された本作品の持つその中立的な視点は、アメリカの映画界が随分とまともになったと感じて好感が持てた。
当時の古い銃が登場する銃撃戦の場面をはじめとして緊迫感のある演出はかなりの迫力で、この映画の最大の見所だろう。この部分は「ヒート」等を作ったマイケル・マン監督の本領発揮というところだろうか。街並みに車に服に銃にと、この時代の雰囲気を出す美術・大道具がかなりしっかりとしていて、当時の雰囲気をそのまま感じ取れるのも良い。とぼけた役が多いジョニー・デップの今回の真面目な役柄もいいし、それを追うFBI捜査官役のクリスチャン・ベールもなかなかのもの。
ただジョン・デリンジャーという男の人物像にはそれほど迫れていない。いい服を着ていい車に乗り犯罪を繰り返すが、弱者からは金を獲らない。だが根っからの犯罪者であり、連続銀行強盗など時代遅れになりつつも同じ犯罪を止められない。その生き様はわかるが、個人としての彼のそのような価値観を形成したもの、彼がそうするときにどう感じているのか。犯罪と捜査の場面だけが繰り返される物語からは、そのようなことがあまり伝わってこない。その意味で彼個人に興味を持ち辛くて、主人公としての存在感が薄くなっている。