リミッツ・オブ・コントロール : 映画評論・批評
2009年9月8日更新
2009年9月19日よりシネマライズほかにてロードショー
ひたすら小さな想像上の闘争を創造せよ
「世界で一番偉いと思っている男を殺す」。
確かそんな使命が男には与えられたはずだ。しかしこの広い世界の中で、一体どのようにしてその男を捜し出せばいいのか?
いや答えは簡単であると、この映画は語る。難しいのはその手続きである。なぜ主人公はこんなことを繰り返しているのかと、誰もが思うだろう。これはまるで役所のたらい回しのようではないか。
ひとつの場所が世界に向かって果てしなく開かれてしまった現在。あらゆる場所に繋がっているはずのパソコンのモニターの、その繋がりの全体は見えない。私たちはひたすら盲目的に、目の前のボタンをクリックするばかりである。この映画はその現代社会の流通と混乱を、たったひとりの男のシンプルな行動のみによって示す。
それは「世界で一番偉いと思っている男」を捜す地理上、歴史上の旅である。その一方で、私たちがクリックの向こう側へと飛び出すための想像=創造上の旅ともなる。その小ささの反復にうんざりすることなくひたすら小さな想像上の闘争を創造せよ、とこの映画は語る。その反復の果てに「男」が見えるだろうと。そのとき世界は確実に変わる。その「男」が支配する社会とその歴史から、私たちは自由になるのである。そのためにこそ、映画は繰り返し作られていくだろう。これを見れば誰もが自分の小さな孤独な行いに、誇りを持てるようになるはずだ。
(樋口泰人)