ウェディング・ベルを鳴らせ! : 映画評論・批評
2009年4月21日更新
2009年4月25日よりシネマライズほかにてロードショー
クストリッツァが見せたスラップスティック・コメディへの愛着
動物、乗り物、奇妙なガジェット、強烈なキャラクター、弾けるバルカン・サウンド。クストリッツァの新作は、この監督ならではのテイスト満載で、息つく間もなくラストまで爆走していくテンションの高いコメディだ。
通過儀礼をテーマにしたおとぎ話を思わせるストーリーはシンプルだが、そこには現代社会に対する視点がさり気なく盛り込まれている。村で教会やイコンを修復し、鐘を鋳造する祖父と、都会で世界貿易センタービルの建造を企むマフィアのボスの間には、ローカリズムとグローバリズムの対置がある。ツァーネが、テレビで見た「タクシードライバー」をなぞるようにヤスナを救出する展開は、70年代のアメリカ映画へのオマージュになっている。
しかし、この映画で最も際立つのは、スラップスティック・コメディに対する愛着だ。サーカスの大砲から放たれた人間砲弾は、重力に逆らって空を飛び続ける。地上では、村と都会に分かれて、祖父と隣人のボサと都会の役人、ツァーネとヤスナとマフィアのボスというふたつの三角関係が、シーソーのような運動を繰り返す。ロープで宙吊りになった祖父とツァーネは女たちに助けられ、役人とマフィアのボスは落とし穴に吸い込まれていくのだ。
(大場正明)