「フランス映画は怖い」フロンティア(2007) クラさんの映画レビュー(感想・評価)
フランス映画は怖い
当時から"胸糞ホラー"というワードがあったかは覚えていないが、かなり衝撃的な胸糞映画だった。胸糞の傑作と言えば「マーターズ」だが、そこまでには及ばずとも相当な内容である。その中でもストーリーは分かり易く、複雑怪奇なテーマという訳でも無い為、1回観れば理解出来る内容である。言ってしまえばフランス版「悪魔のいけにえ」のたぐいの作品である。
偶然立ち寄った田舎の宿にナチスに偏った狂った家族がおり、1人ずつ餌食になるという物語だ。人を家畜のように扱い、脱走しない様にかかとを切るなどの顔をしかめてしまう様なバイオレンスもかなり多く、ホラー初心者には絶対にオススメ出来ない作品である。本作には一家の"父親"たる権力の持ち主が居るのだが、レザーフェイスの様な"キャラクター"としての魅力を持つボスキャラは存在しない。その一家だけで通用する法も論理も無視のルールだけで生活をしている連中である。主人公はヤスミンという女性で、初めこそ泣き叫ぶばかりであったが、後半は銃器を手に復讐という名の大逆襲がスタートする。別人かと思う程の銃撃戦に身を投じて行く為、これには恐怖よりも清々しい思いにもなる。このシーンは必見だ。
冒頭で荒れるフランスを描いているが、これは極右の政党が政権を握りそうになり、それを阻止しようと市民が暴徒化した実際の出来事を描いている。極右政党は、言わばナチ野郎。そんな奴らに政権を奪われてたまるかという事から始まった暴動だが、今回出て来る狂人一家もしっかりナチス傾倒。これはフランスの抱える闇を映像化したと言わざるを得ない。ナチス時代はこういう事をやっていたんだと言わんばかりの映像には心底不快であり、恐怖を感じる。作品としてはツッコミどころはあるものの、これが「ヒットマン」というヒット作を世に送り出す前のサヴィエ・ジャン監督の実力である。フレンチホラー恐るべし。
