劇場公開日 2008年11月1日

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「ドラマなのに、素でつかみ合いのケンカをするほど白熱したガチンコ激論は見応えがあり。しかし、演出しない映画手法に疑問。」ブタがいた教室 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ドラマなのに、素でつかみ合いのケンカをするほど白熱したガチンコ激論は見応えがあり。しかし、演出しない映画手法に疑問。

2008年12月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 いのちはなぜ尊いか?
 道徳教育を否定し続けてきた現在の学校教育では、こんな簡単で教育の根源的テーマに答えられません。だから、いじめや自殺、果てはDVやら無差別殺人につながっていると思います。
 そういう点で手放しでお勧めしませんが、実話に基づく問題作として考えていただきたい一本です。

 ある小6のクラス担任が子供たちに命について考えさせるため、ブタを1年間飼って食べようという″授業″を行います。この授業の是非はさておき、映画の中で子供たちが涙ながらに交わす「食べる」「食べない」のガチンコ激論は見応えがありました。星先生の情熱と、子どもたちが自ら考えて真剣に事態に向き合う姿に心を打たれることでしょう。 本作の元になったドキュメンタリーがテレビ放送されたときも、視聴者からの反応は「残酷だ」、「それは教育ではない」という批判的な声が多かったようです。

 人間が生き物を食べずに生きられないのは残酷なことです。でも、宗教的に見れば動植物にとって生まれもった肉体は、今世いのちを差し出す修行でもあり、人間には感謝の心で生をまっとうする義務があります。もし食べることが悪であれば、食べられないような味になっていたことでしょう。そうなれば食事は、いのちを維持する難行苦行となっていたはずです。

 だから食事は、いのちを戴く大事な教育の場であると思います。教える側にそんな観点があれば、こうした話題になっても子供たちの心に割り切れない疑問や傷を残さずに済むはずです。
 けれども星先生は、あくまで子供達に自由にディスカッションさせて、自らは一言もいのちの尊さを語ろうとしませんでした。というよりも、本人もどう答えるか分からなかったようなのです。星先生の戸惑う姿に、宗教的バックボーンのない「命の教育」の限界を痛感させられました。
 教育現場で、道徳を教えようとすると直ぐ、大人の価値観を押しつけてはならないという批判が父兄や労組から帰ってきます。しかし、大人がきちんと善悪やいのちの尊さを教えないと、子供達だけでは分からないと思います。
 いじめ問題でも、先生が介入を避けて、この映画のように加害者の子供と被害者の子供を話し合いさせようとするから、解決しないのです。
 日教組は、給食で『いただきます』と手を合わせることすら、宗教的と否定します。食べ物に宿るいのちについての宗教的観点があれば、子供達に感謝の大切さを深く教えられることでしょう。

 本作は製作手法も映画づくりのあり方について、問いかける作品です。
 あくまで脚本のあるフィクションであるのに、出演した子供達に自由に語らせたドキュメンタリーでもあるのです。手渡された脚本は白紙(^^ゞ結末が記されていない脚本だったのです。だから、Pちゃんとふれあう子供達は素のまんま。オーディションからの180日間、実際にブタの飼育をしながら自分たちが撮影で飼っているブタをどうすべきか討論していったのです。そのため子供達は、撮影している「Pちゃん」に感情移入してしまい、思いや意見をカメラにぶつけたのです。演出でなく子供達の意見は「食べる13人、食べない13人」の真二つに別れ、時には議論が白熱して大粒の涙を流し、つかみ合いのケンカをしたこともあったそうです。そのシーンは演出ではなかったのです。
 撮影を通して役を演じる子どもたちもまた、この授業を追体験したのでした。

 演技でないぶん、みんな本物の表情で語るのですが、それが映画としては手抜きではないかという疑問も残りました。
 実家が居酒屋をやっていて、常に肉料理に触れている子供。また晩ご飯にトンカツが出てきて食べられなく子供のシーンなどありましたが、その後が描かれませんでした。もっとお肉が食べられなくなった子供たちの葛藤を描いてほしかったです。
 あと『コドモのコドモ』で出産を経験する甘利はるなを転校生役に投入したものの、Pちゃんの飼育を通じて彼女がクラスメートに打ち解けていく過程も不十分でした。天才的演技力のはるなちゃんだけにもったいないと思います。

 カメラが回っていない時でも「星先生」と慕われくらい妻夫木聡は教師役がはまっていました。教師役は初挑戦だそうです。撮影現場では子どもたちに優しく、時に厳しく「先生」として接したとか。子供が好きなんでしょうね。

 最後に、校庭をのっしのっしわが物顔で遁走したり、子供達と巧みにサッカーに興じたりするPちゃんは、なかなか芸達者でお尻がキュートでした。思わず小地蔵も感情移入してしまい、こんなかわいいブタを食べられてしまうのがかわいそうになったほどです。

流山の小地蔵