「玉木宏の新境地。NON-STOP ACTION CINEMA.」MW ムウ L’argentさんの映画レビュー(感想・評価)
玉木宏の新境地。NON-STOP ACTION CINEMA.
自分は手塚治氏の原作を読んでいないので、何の先入観も持たずに観ることができた。
原作はおよそ30年前のもの。
だが、それを現代に置きかえても何ら違和感も覚えなかった。
むしろ“地下鉄サリン事件”や“9.11”を思わせるような(場面もあり)現代にも起こり得るの事なのではなかろうか?とさえ思われた。
原作では結城と賀来の同性愛だとか、新聞記者が男性であるとか諸々の違いはあるようだが、それはそれとして、非常に完成度の高い作品に仕上がっていると思う。
ただ、確かに、賀来神父役の山田孝之にはやはり年若いためか「神父」としての貫禄が見られず、ミスキャストだったのでは?とは思ったが・・・。
冒頭、Bangkokで起こる誘拐事件で玉木扮する結城美智雄、その真骨頂を見せ付けられた気がする。
役作りのためにウェイトコントロールをした様だが、そのシャープな身体つき、面立ちに正しく冷酷無比で頭の切れる結城がぴたりと嵌っていた。
対する石橋凌扮する沢木一之は、幾つもの修羅場を潜り抜けてきた叩き上げらしい、どこまでもしつこく「ホシ」を追い詰めてゆくベテラン敏腕刑事の姿を偉観なく発揮し、その存在感を知らしめており、この仰っけからのBangkokでの誘拐劇のシーンに惹きつけられた。
圧倒的に玉木だけに(心情としても映像としても)焦点を置き、その姿を追い、撮影し続け、その特出した異様な性格や行動を弥が上にも知らしめようとしているのが判る。
玉木はその期待通りに役を演じきった。
今公開中の「真夏のオリオン」や「ウォーターボーイズ」「ただ、君を愛している」やTVドラマ「篤姫」「鹿男あをによし」「のだめカンタービレ」(シネマ公開も近いが)でこれまで見てきた所謂『スマートな二枚目』『好青年』『真摯で真面目な青年』の殻をぶち破り、悪役・悪魔になりきっていた。
「どんなに人を殺しても、喉が渇くんだよ」というセリフは非常に結城を表す象徴的なもの。
撮影もさすがにL.Aで腕をふるい日本でも「世界の中心で、愛をさけぶ」などを手がけてきたカメラマンだけのことはある。
躍動感に満ち満ちており、生き生きとした迫力のある映像だった。
そして、音楽もまたストーリー展開とマッチしており、時には迫り来るその『事態』への静かな興奮を、時にはviolenceに、と終止一貫して「MW」なるものの異様さを湛えた構成になっていた。
ラスト、結城美智雄が米国軍基地で兵隊たちに取り囲まれるシーンも本物のTHAILANDの軍隊で銃も本物。
少しもぶれることなく銃を構える姿にrealityが無いわけがない。
岩本監督のこの作品への入れ込み様が窺い知れるというもの。
上映前に買ったアイスコーヒーの氷が溶けても、容器に水滴がびっしり付いても上映中にそれを手に取り口に運び飲むことが出来なかった。
一口も飲めなかった。
それほどまでにこの作品にのめり込み、引き込まれた。