「遥かなり故郷への旅路 (通常の3D観賞推奨)」ホビット 思いがけない冒険 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
遥かなり故郷への旅路 (通常の3D観賞推奨)
170分の上映直後にも関わらず、鑑賞直後にこう思った……
「観足りませんッ! このまま第2部を上映してくださいッ!」
流石にそれは無理なので、劇場や上映方式を変えて3回観ました(←馬鹿)。
3D云々の話については後半に書きますが、
興味の無い方は読み飛ばしてくださいな。
いやいやいや、今年観たエンタメ大作の中でも
間違いなくトップクラスの満足度!!
満点ではなく4.5判定を付けたが、何ならこの作品の為に
他の作品の判定を一段階ずつ下げても構わないくらいだ。
最初に難点を言ってしまおう。
原作が『指輪物語』より児童向けという事もあり、
前作よりシリアスなムードや細かな心理描写はやや薄れてしまっている。
前作ほどの、号泣必至の壮大なフィナーレは望めないかも知れない。
だがその分、よりスピーディでダイナミックな見せ場満載!
大平原でのワーグ(魔狼)とのチェイス!
岩壁移動シーンの圧倒的スケール感!
炎上する松林での対決!
緩急の間が絶妙なアクション演出とケレン味たっぷりの画作りが相俟って、
どれも高揚感がハンパ無いっす。
なかでも地下街での疾走感溢れる大戦闘シーンは圧巻!!
3回目でもムチャクチャ興奮して観られましたよ。
今回は邪悪なサウロンに蹂躙される以前の、
生き生きとして明るい『中つ国』が舞台。
だからだろう。本作の映像は“陽”のエネルギーに溢れている。
豊かな自然風景やそこに差し込む陽光は実に色鮮やかで、
溜め息が出るほど美しい。
それに、『指輪物語』ほどで無いとは言え、
ここまでのきめ細やかさは大作映画ではやはり稀有。
ビルボの旅立ちのシーンが好きだ。
はた迷惑で賑やかなドワーフ達が去った後の空虚さ。
何もかも元通りになって一件落着の筈なのに、あの空虚さ。
あなたは感じた事は無いだろうか?
変化を恐れる余り、ずうっと待ち望んでいたものを
逃してしまった時の虚しさを。
だから、ビルボが走り出した瞬間、僕は胸が踊った。
彼の冒険を心の底から応援したくなったのだ。
一度は挫けたビルボが再び旅の一行に加わった理由もシンプルだが感動的。
結局、この旅はドラゴン退治の旅でもなければ
失われた財宝を探す旅でも無い。
愛する故郷への、長く険しい家路。
その点で、本作は『指輪物語』と共通していると思う。
ビルボを演じたマーティン・フリーマンが地味に巧い。
常にコミカルな動きで笑わせるくせ、
そのままの所作でこちらの心を動かす言葉を吐く。
おどけた仕草の中で時折見せる、真っ直ぐな眼差しが忘れ難い。
そして、ドワーフの王子トーリン・オーケンシールド。
オーケンシールド(樫の楯)という名の由来が勇まし過ぎる!
終盤、燃え盛る木からゆっくり降り立つシーンなんざ、
鳥肌立つほど格好良いぞコンチクショー!!
ギムリと同じドワーフらしく石頭で融通が利かないが、
その剛胆さ、義理固さ、誇り高さに惚れ惚れ。
まだ未熟な部分もある彼も、これからの旅で成長し、
王の資質を体得してゆくんだろう。
他のドワーフで名前を覚えてるのは2、3人(笑)。
流石に13人の描き分けは難しかったと見えます。
が、個人ではなくチームとして見れば見事なコンビネーション。
全員揃って初めて「慣れれば愉快で楽しい連中」となる訳だ。
そして、以前にも増してゴラムが怖い!
指輪に憑かれた残忍で狡猾な“ゴラム”と、
子どものように純朴で哀れな“スメアゴル”が
くるくると入れ替わり、全く気が抜けない。
なぞなぞ対決というファンシーな設定を、
あそこまでサスペンスフルに見せた手腕には舌を巻く。
更には、原作では追補でのみ言及されているという邪悪な存在も登場。
シルエットのみの登場だったにも関わらず、かなりの不気味さである。
『ホビット』と『指輪物語』を繋ぐ存在として、
そして原作を超えるスケールを打ち出す為の要素として、
次作から話にガンガン絡んできそうな雰囲気だ。
他にも、
前作以上にアクティブな活躍を見せるガンダルフ、
不衛生なブッ飛び老人と見せかけて、実はやり手なラダガスト、
強大で残忍で執念深いオークの族長アゾグ、
相変わらず人間離れした美しさを放つガラドリエル、
昔もやっぱり怖くて嫌なジイ様だった事が判明したサルマン、
あと、ハリネズミのセバスチャン(笑)など、
キャラに風景にアクションに、
もう見所が多過ぎて終始ワクワクしっぱなし!
前3部作が既に伝説化してしまっているので
どうしても差異が気になってしまうのかしら。
他の皆さん割と点が辛いようだが、
『指輪物語』より先にこちらを観ていたら……
と考えると、僕はやっぱりワクワクしてしまう。
子どもの頃にこれを観たらきっと、
一生忘れられない映画になっていたと思う。
こんな映画があと2本も観られるなんて、映画ファン冥利に尽きまする。
スタッフの皆様、来年もよろしくです!
<2012/12/15,16,23鑑賞>
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ここからは3D上映についての話を。
老婆心ながら、鑑賞前の方にひとつ注意です。
2D、3D、そして最新技術のHFR3D(通常の2倍のコマ数の3D)と
3種類の方式で上映されている本作だが、
全ての映画館がHFR3D方式で上映している訳ではありません。
最寄りの映画館がHFR3D上映に対応してるかどうかは
本作のオフィシャルサイト等で公開されているので要チェック。
しかしながら僕は、HFRよりも通常の3Dでの鑑賞を勧める。
例えば、映画館で観た作品をテレビで観直した時、
CGの“作り物臭さ”が劇場より目立つように感じた事は無いだろうか?
3回目に初めてHFRで鑑賞した際、僕はそれに非常に近い感覚を覚えた。
つまり、HFR3Dは全体的に作り物臭さが増し、
世界観に入り込み辛いと感じたのだ。
世界観に没入できないのはこの手の映画ではかなり痛いと思うので、
判定としては0.5~1.0マイナスかな。
ただ、通常の3D版は、僕が今まで観た3D映画の中でも
ベスト10に入るくらいに上質だとも付け加えておきます。
ここからは僕の自説が多分に混じっているので話半分に聞いて頂きたい。
映画は通常、1秒に24コマの画を流しているのだが、
それが動画に見えるのはコマとコマの間を我々の脳が補完している為だ。
端的に言えば、足りない画を脳ミソが勝手に描き加えているのである。
それはつまり、CGと実写の境目を、自分の脳で埋めているという事。
しかしテレビ等の場合は1秒60コマ
(欧米は50コマ)。今回のHFR3Dは48コマ。
足りない部分を脳が埋める必要が少ないが故に、
かえってCGと実写の差が際立ってしまう。
端的に言えば、『よく見える分、アラまで目立つ』
という事……なんじゃないかねえ。
本作のCGのレベルは間違いなく現時点での最高水準だが、
それでも人間の目をごまかすにはまだ早いんじゃないかしら。
以上、僕がHFR3Dを推奨しない理由でした。
※携帯の字数制限ではとても書ききれず、帰省先のPCから投稿した結果、
いつも以上の長文になってしまいました。
駄文に最後までお付き合いいただき、有り難うございました。