劇場公開日 2008年9月6日

  • 予告編を見る

「「落ちること」をおそれるな」落下の王国 nao-eigaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5「落ちること」をおそれるな

2010年5月15日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

興奮

幸せ

非常に見どころの多い作品だった。
前作「ザ・セル」で衝撃を与えてくれたターセム監督は、
またも素晴らしい映画を届けてくれた。

一切CGを使っていないという豪華絢爛な映像は圧巻だ。
現実にこんな美しい場所があるなんて信じられない。
まるで映画のために作られた豪華な舞台のようだった。

CGを多用する映画が今はたくさんあるが、一歩間違えばチープなものになってしまう。
チープなものだと認識してしまえば、いくら壮大なスケールの映画であっても
映像に対しての感動はない。
(丸わかりの合成映像にも反吐がでることが多い。)
CGに頼らずに現実にあるものだけでこれだけの映像美を作り上げたところに、
ターセム監督の「本物の美しさを撮りたい!」という映像に対しての情熱が伝わってきた。

また、前作「ザ・セル」に続いて石岡瑛子が衣装を担当している。
奇抜なデザインや色使いは健在。
お話の中の奇妙で独特の世界観を作り上げることに一役買っている。

そして、少女を演じたカティンカちゃんがとてつもなく可愛いらしい。
とにかく自然体で、演技くささが一切感じられない。
決して美少女というわけではないが、
ニカっとはにかむような笑顔や、ぷっくりしたほっぺた、
チロチロ動く指先・・・とにかく子どもらしさが存分に出ていて愛らしい。

ロイを演じたリー・ペイスもかっこよくて素敵だった。
普通に生活していれば、接点もないであろうロイと少女が、
病院内の限られた時間、場所の中でこっそり二人だけのお話会をし、
親密になっていく様子(少女がロイに懐いていく様子)は
なんともほほえましい。

だだっぴろい大部屋の中、カーテンで区切られた二人だけの空間。
まるで秘密基地のようなドキドキ、ワクワク感。
その秘密基地にはお話を聞かせてくれる「自分だけの」お兄さんがいる。
そのお兄さんの懐に潜り込み、今日もお話の続きを聴く。
私は少女に自分を重ね合わせてこの映画を観ていたかもしれない。

「落ちることをおそれるな」は私がこの映画から受け取ったメッセージだ。
ロイも少女も、落下したことで入院し出会った。
ロイは肉体だけでなく精神的にも落ちていた。

しかし少女によりロイの絶望の世界に光が差し込む。
ロイのお話は、自分の精神状態とリンクし絶望へと向かうが、
少女の無垢な心によって自分の弱い心に打ち勝ち、
ロイの予定になかったハッピーエンドを迎える。

スタントマンだった大の男、ロイを救ったのは
たまたま病院で出会った少女の無垢な心だった・・・。

「落ちる」という言葉には負のイメージがつきまとう。
崖から落ちる、闇に落ちる、落ち込む・・・。
そのような負のイメージのある「fall」を題名にした監督の意図とは?

命がけのスタント。高い場所から落ちる。
一歩間違えば死ぬこともある。
ロイのように怪我を負い、絶望することもある。
映画の裏にある、命をはって映像を作り上げる人間の偉大さ。
「落ちる」ことの美学。

長い人生の中、誰にだって落ちるときは来る。
もうどん底に落ち込んでしまうことだって。

だけど、落ちたっていい。
そこから這い上がることは、いつからでも出来るのだ。
落ちることをおそれなくていい。
落ちることは、決して悪いことじゃない。

そのようなメッセージが、題名「fall」にはあるのではないかと感じた。

この映画の映像美に注目が集まることが多いだろうが、
私はこの心温まるストーリー、メッセージにも注目してほしいと思った。

コメントする
nao-eiga