ホウ・シャオシェンのレッド・バルーンのレビュー・感想・評価
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子供たちを見守る赤い風船
アルベール・ラモリス監督の映像詩『赤い風船』へオマージュを捧げた作品。オマージュというよりはリスペクトと言った方が良いか。人形劇作家のスザンヌが、息子シモンの新しいベビー・シッターとして中国人留学生のソンを雇ったところから物語は始まる。ビノシュ演じるスザンヌは、人形劇という夢のある仕事をしているのに、新作の準備に追われる中、下階の住人とのトラブルや別れた夫や別に生活している娘のことなど悩み事が尽きず、終始イライラし、時に怒鳴りちらしている。それでも息子に温かい言葉をかける良い母親だ。そんな大人社会のギスギスしたシークエンスから、子供たちを映したシークエンスになると、とたんにのんびりとした温かい雰囲気に変わる。このコントラストが実に鮮やかだ。シモンと散歩するソンは、ハンディーカメラで子供の表情を撮影しながら、子供のテンポに合わせてのんびりと会話をする。映像の勉強をしているソンは、シモンを主演にラモリスの『赤い風船』のリメイク作品を制作している。パリのくすんだ街並みに風船の鮮やかな赤色が美しい。風船と同様に印象的なのがスザンヌ母子が暮らす部屋の赤いカーテン。そこから陽の光が透過され、散らかった部屋は幻想的な赤色に輝いている。物語はこの一家の日常を淡々と描く(スザンヌの抱えている問題も最後まで解決しない)。時折、シモンを見守る赤い風船が窓の外に見えるだけだ。この赤い風船はソンが描いたフィクションか、それとも本当に子供たちを見守っているのか・・・?もしかしたら赤い風船は、すべての子供たちの頭上にいるのかもしれない。子供にだけその存在が見えるのかもしれない。おそらくパリだけではなく、この日本のどの町や村にも。子供たちの瞳に鮮やかな赤を映しつつ、きっとその成長を見守っているに違いない・・・。
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