「「本物」になれなかった映画。」フェイク シティ ある男のルール エライさんの映画レビュー(感想・評価)
「本物」になれなかった映画。
この映画はどこか「本物」に届かなかった印象が拭えない。キアヌ・リーブスの圧倒的な存在感とフォレスト・ウィテカーの重厚な演技は間違いなく輝いている。それだけに、この作品が持つ矛盾が一層際立ってしまう。
冒頭、ロサンゼルスの街に漂う人種差別の問題や、主人公が抱えるアルコール依存症といった濃密なテーマが提示される。だが、それらの重要な要素は、物語が進むにつれて霧散してしまう。
デヴィッド・エアー監督といえば、「感情に動かされるキャラクター」を描くことにかけて一流の手腕を持つ。しかし、今回の作品では、キャラクターや物語の背景を深掘りすることが途中で放棄されてしまった印象が否めない。それゆえに、映画の中盤以降で行き場を失ってしまう。
ただし、この映画が完全な失敗作というわけではない。エアー監督特有の荒々しさや、ロサンゼルスの暗黒街を舞台にした重厚な雰囲気には確かな魅力がある。そして何より、キアヌとウィテカーの名演技は、欠点だらけの物語の中でも観る者の心を掴む力を持っている。
「フェイクシティ」は、優れた演技と魅力的なテーマを備えながらも、それを活かしきれなかった惜しい作品だ。それでもなお、この映画が描こうとした「本物」への挑戦には、どこか惹かれるものがある。欠点を数えながらも、最後にはその未完成な魅力に目を向けてしまう、そんな映画だった。
コメントする