白石晃士監督の前作の記憶も薄れてきていて、自分の感想にあった“聞き間違い”が何だったのかも思い出せない今日この頃。最近のイオンシネマのラインナップが気になって仕方がないのです。ジョリー・ロジャーという配給会社・・・何だそれは?海賊版専門か?と不思議な感覚に包まれる。一応、トルネード・フィルムの関連会社であり、2007年に設立されたらしい・・・とまでは調べられたのですが、今後の動向にも注目。
さて、そのジョリー・ロジャー配給のこの映画。続編のホラーだと思っていたのに、なぜだか1978年を舞台にしたホームドラマ風。そして養鶏場を営む沢田家の三姉妹の末っ子真弓(飛鳥凛)の純情初恋ドラマへと展開する。それが延々30分。『クローバーフィールド』のパーティシーン以上に前置きが長いため、すっかりホラー映画であることを忘れていた頃、突如として悲劇が起こる。三姉妹の長女幸子(川村ゆきえ)の、今で言う元カレが今で言うストーカー行為の末、真弓に硫酸をぶっかけ、母親をメッタ刺しにして殺害。父親(斎藤洋介)がその元カレを猟銃で殺してしまうのだ・・・
この落差。小津風とはいかないまでも明らかに温かい家庭を描き、女子高生の淡い初恋でほんわかさせられた直後の出来事だったのです。哀れ真弓は当時の医学に見放され、お岩さんのように左顔面が爛れたまま。そして、口は耳元まで開いたのを粗雑な縫合で留めただけの処置であったのだ。拭けども拭けども家中に飛び散った血の跡は拭えず、近所からは好奇の目で見られ、あらぬ噂をたてられる始末。長女が結婚したばかりの幸せな家庭は、真弓だけがお粥を啜る食事風景に象徴されるように惨めな方向へと進むのでした・・・この事件だけでも泣けるのに、不幸は追い打ちをかけるように襲ってくるのです。
女子高生連続殺人事件なんてのは後半になってから。それでもホラーというよりサスペンスものといった雰囲気。しかも展開はすべて読める。どうせならホームドラマや難病モノで終盤まで押し通すという手法の方が面白いのかもしれないし、低予算映画であることを逆手にとってホラーの定石を無視してくれれば、かなり評価できたのかもしれません。口が裂けるというシーンなんて前作と同じくエンディング近くだし、ホラー映画を期待している観客へのサービスに過ぎないというか・・・
当時の高校生の細かな台詞などはもうひとつだったのですが、殺鼠剤とか伏線は効いている。また、特筆すべきは昭和の時代の再現。1978年当時の電化製品やその他小物にえらくこだわっているところがすごい。食卓では妙に存在感のある魔法瓶や、テレビなど。特に大きなテレビはカセットテープレコーダー付き!これにはしびれました。サイコホラー風のVFXや編集技術が霞んでしまうくらい、美術スタッフが優れていたのです。これも『ALLWAYS』の影響なのかな~などと思っていたら、ジョリー・ロジャーは『ALLDAYS 二丁目の朝日』という映画を作っていました(笑)。そして、『口裂け女2』の監督である寺内康太郎氏の次回作はなんと『少林老女』!やられた・・・
【2008年4月映画館にて】