劇場公開日 2008年9月20日

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「陰謀論が与えるリアリティ」ウォンテッド R41さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 陰謀論が与えるリアリティ

2025年10月11日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

『ウォンテッド』(2008)レビュー

アメリカのグラフィック・ノベルを原作とした実写映画
アメリカのグラフィック・ノベルを原作とする本作は、納得のいく仕上がりだった。

フリーメーソンを想起させる秘密結社「フラタニティ」の存在が、ファンタジー的な世界観に不思議なリアリティを与えている。

以前に観た記憶があったが、改めて観ると、主人公ウェスリーの「覚醒」に焦点が当てられつつも、コメディタッチやド派手なアクションが混在し、2時間弱という尺では収まりきらない“余白”が残されているように感じた。
その余白は、原作のグラフィック・ノベルにこそ描かれているのかもしれない。
特にフォックスというキャラクターには、考えさせられる要素が多い。
彼女がフラタニティに加わった理由は語られるが、いつの間にか組織はスローンによって私物化され、「運命の織機」の暗号すらも偽造されるようになる。かつては信じて疑わなかった組織が、実はスローンの私的な処刑装置と化していたのだ。

スローンの裏切りが明かされ、仲間たちは一瞬で選択を迫られる。
その真意を問う間もなく、仲間の一人が「掟などクソ喰らえ」と吐き捨てたことで、フォックスは覚悟を決める。
スローンの言葉――「歴史を変えることができる。望みはターゲットを選ぶだけ」――には、神のような権力の誘惑が潜んでいた。
羊ではなく狼として生きること。
フラタニティを神の高みに引き上げること。
それはまさにルシファー的な思想だ。

その思想に同調してしまった仲間たちを前に、フォックスは他者の意見を聞く間もなく、自らの命を含めた“自決”を選ぶ。
そしてその瞬間、フラタニティの未来をウェスリーに託したのだろう。
ほんの一瞬のうちに、彼女はすべてを思考し、決断し、実行した。
正しいと信じていた行いが、実はスローンの私的な野望の手助けだったと知ったとき、フォックスにとってそれは死にも等しい苦しみだったに違いない。
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この物語の現実は、我々の現実とは異なる次元にあるように感じられる。
ウェスリーは「否応なし」に巻き込まれたように見えるが、彼は何度も「なぜここに来た?」と問われる。
人を殴ることも、ナイフで刺すことも、銃を撃つことも、すべてに「明確な意志」が必要だ。
意志がなければ、この仕事は成り立たない。

この物語において、そしておそらく我々の現実においても、「意志」こそが人生を変える根幹なのだろう。
日々のルーティンに埋もれ、与えられるだけの生き方に慣れてしまった現代人。
選択肢はあるはずなのに、思考を放棄した頭は、選択の必要すら感じなくなっていく。
これが現代病なのかもしれない。
ただ生きていることが「良し」とされる社会。

「そうは思わない」と反論しても、結局は「何事もなく」終わる日々を望んでしまう。
そんな退屈な日常に対して、1000年の歴史を持つ秘密結社と、「運命」という名の使命によって世界を救うという物語が提示される。

この物語は、正義が貫かれるヒーロー譚であると同時に、石工とフリーメーソン、機織り職人とフラタニティ、そしてフリーメーソンとイルミナティといった、実在する陰謀論的要素が物語に深みを与えている。
なかなか奥深い物語だった。

R41
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