重力ピエロのレビュー・感想・評価
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「重力」に翻弄される家族の物語
【春が2階から落ちてきた。】
この印象的な語りから映画は始まります。
兄・泉水と弟・春の2人の兄弟。
兄は遺伝子学を学ぶ大学生。
弟は仙台市内の落書き(グラフィティアート)を消す仕事をしていました。
仙台市内で起きていた連続放火事件。
その「法則性」に気がついた2人は、放火事件の謎を解こうと事件を追い始めます。
一方、24年前に起きたある連続事件の犯人が舞い戻ってきたことを知った泉水は・・・。
この作品は、泉水と春の兄弟の物語であり、
2人を優しい眼差しで見守る父と子の物語であり、
亡くなってしまった母を含めた家族の物語です。
ストーリーは、淡々と進んで行きます。
前半は、謎解きのドキドキもあり、笑いもあり(春を追い回す夏子さんの写真は必見(笑))、
家族のドラマとして観れるんですけど、
後半。家族に関する【ある衝撃的な事実】が判ってからは、様子が変わって行きます。
作品中には、たくさんの印象的な台詞が出てきます。
冒頭の【春が2階から落ちてきた。】もそうなんですけど、
終盤の父(小日向文世さん・良い演技してます)の台詞は、深くて印象深いです。
【おまえは俺に似て、嘘が下手だ。】
父が春に向けて言ったこの言葉。このひと言で全てが語られているような気がします。
この家族は、「重力」に逆らって楽しく生きることが出来なかったかもしれない。
作品としては、正直、かなり重いです。
でも、ラストシーンには爽やかな余韻が残りました。
それが、2人の兄弟にとってのせめてもの救いだったんだと思います。
原作は未読だったんですけど、久々に、観終わった後、原作を読みたいと思った作品でした。
レイプ、グレープ、ファンタグレープ
レイプ、グレープ、ファンタグレープ
映画「重力ピエロ」( 森淳一監督)から。
原作が伊坂幸太郎著「重力ピエロ」とあって、楽しみにしていた。
しかし結果は、厳しいようだけれど「撃沈」。
やはり、伊坂作品を映画化するのは、難しいことを知った。
昨年映画化された「死神の精度」が良かったので期待したのだが・・。
理由は、事前に原作を読んでいたからだと思う。
あまりにも、省略された部分が多過ぎて、その面白みを失った気がする。
「ネアンデルタール人と、クロマニョン人」が、
作品に登場しなかったのには驚いた。(知りたい方は原作を(笑))
そこで、今回は原作になく、映画だけに登場したシーンから。
子供の時の回想シーンで弟が「レイプって何?」って訊くところがある。
兄が「レイプ、グレープ、ファンタグレープ」と口にして、ごまかす。
何度も何度も口にして、2人で笑い飛ばしてしまうところは、
ちょっと意外だったけれど、印象に残っている。
確かに「遺伝」は大事なキーワードだけど、
「レイプ」は、そんなに強調するキーワードとは思えないに・・。
もちろん作品関係者は酷評しないが、原作を何度も読んだ私としては
タイトルの「重力ピエロ」すら、うまく表現できていない、と感じた。
映画を観た後に、原作を読んだ方がいいのだろうか?
いやいや、伊坂作品は映画にしない方がいいな、きっと。
最強の絆。
原作は読んでいないが(でも映画化作品はほぼ観ている)
この「伊坂幸太郎」という人の世界観は凄いなと思う。
ミステリー性とドラマ性が見事に融合しているというか、
例えば「あり得ない」だろう話を「ありふれた」話に感じさせる、
なんかものすごい説得力があるのだ。特異性を感じる。
今回の話も、おそらく凄い話なんだろうな~と思っていた。
原作ファンはあの世界観をどう映像化するのかと思ったそうだ。
監督は「ランドリー」の森淳一だが、今作もまた見事だった。
観た後で、この物語そのものに重力を感じさせる強さがある。
とはいえ…とても悲しく、耐えられない話でもあるのだが。
落書き消しのバイトをする弟と、大学院で遺伝子を学ぶ兄、
はちみつ作りに没頭する父親の仲良し3人家族。
しかしこの家族には、過去にとても辛い経験が隠されている。
いっぺんにそれを語らないので、どういう経緯だったのか、
連続放火事件と遺伝子に関係あるメッセージのミステリーと
合わせて、冒頭からゆっくり。。じわじわと。。描かれていく。
とにかく兄と弟は仲が良く、父親がそれを優しく見守っている。
小さな頃から芸術センスに優れたカッコいい弟。当然モテる。
しかしとにかく、女に興味がない。それはなぜなのか。
半ば嫉妬心を煽られる兄でありつつ、大人しい加瀬亮が上手い。
やがて真相が明らかになると…いた堪れない気持ちになる。
もしも自分がこの弟だったら。そしてこの父親だったなら。
小日向文世が笑顔を見せるほど、切なさが増して辛くなる。
「俺たちは最強の家族だ。」の裏に、こんな辛い事実があり、
でもそれを(決して忘れてはいないが)不幸だと決めつけず、
共に支え合って生きてきた、ささやかな一家族だったのだ。
亡き母も、彼らをとても可愛がっていた。
許せないのはいわゆる犯人。それ以上に世間の好奇の目。
なぜ被害者家族があんな扱いをされなければならないのか。
本当にこの世から重力が無くなってしまえば、
彼らをその錘から解放してやれるのかもしれないと思える。
後半は心理戦で、それぞれの思いと事件の真相が交差する。
弟をつけ回していたストーカー少女(しかし彼女の存在は大きい)
の告白で、兄は弟の苦しみを知り、同時に、自分の弱さと
向き合うことになる。とにかく加瀬亮の静かな演技が秀逸!!
いかに重苦しい現実と向き合うことになっても、家族がいて、
健やかな環境があれば、自分が自分であることの認識を得て、
前を向いて生きていくことだってできる。遺伝子という繋がりを
それ以上の絆に変化させる力が、この家族にはあったのだから。
ラストは…必ずしも由とはいえないが、なぜかスッキリとする。
(辛い話を陽気に話せるお人柄で、聞く方は楽になれるもの。)
ミステリだと思っていた
いつも映画を見る前に、筋を見ないので、正直、ミステリだと思っていた。が、結局は家族の物語だった。配役がとても的確で、演技力のある人ばかりだったので、安心してみられ、深い話だったが、最初からレイプシーンがあり、女性としてはあまり好きではない話だった。
これぞ、2009年の映画賞候補!
冒頭の、春が二階から落ちてきた
小説で鮮烈な印象を受けたシーンが、映画で見事に表現されていた。
最初の5分間の空気感と映像で、これは、いい映画に違いない!という確信を得たがその直感どおりの映画だった。
長編小説を映像に変換させるにあたり、あらゆる工夫がされていると感じた、これなら伊坂さんが気に入る訳だ!小説と映画で形は違えど、魂は同じだからだ。
エンタテインメントとアーティスティックな部分のバランスが実に見事。映画好きにも、娯楽作好きにも、両方受け入れられる作品だ。
技術陣が見事なまでに、演出を支えている。
加瀬亮は、見事なまでに一番難しい普通の人を演じており、これで主演男優賞を受賞するに違いないと思えたし、何といっても、春を演じた岡田将生は、これまでの作品とは桁違いの存在感と演技力を発揮している。彼は2009年、この作品でブレーク必至だろう。
そして、その驚きと同じくらい、今までに見せたことがない演技を発揮しているのが、小日向文世と鈴木京香だ。
この二人、前から演技達者とは思っていたが、こんなにナチュラルでこんないい表情を魅せる役者だったのかと改めて感心した。助演男優賞・助演女優賞に値する。
撮影・照明・録音・美術・音楽、どれをとってもいい。
満足度がとても高い映画だった。
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