「最強の絆。」重力ピエロ ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
最強の絆。
原作は読んでいないが(でも映画化作品はほぼ観ている)
この「伊坂幸太郎」という人の世界観は凄いなと思う。
ミステリー性とドラマ性が見事に融合しているというか、
例えば「あり得ない」だろう話を「ありふれた」話に感じさせる、
なんかものすごい説得力があるのだ。特異性を感じる。
今回の話も、おそらく凄い話なんだろうな~と思っていた。
原作ファンはあの世界観をどう映像化するのかと思ったそうだ。
監督は「ランドリー」の森淳一だが、今作もまた見事だった。
観た後で、この物語そのものに重力を感じさせる強さがある。
とはいえ…とても悲しく、耐えられない話でもあるのだが。
落書き消しのバイトをする弟と、大学院で遺伝子を学ぶ兄、
はちみつ作りに没頭する父親の仲良し3人家族。
しかしこの家族には、過去にとても辛い経験が隠されている。
いっぺんにそれを語らないので、どういう経緯だったのか、
連続放火事件と遺伝子に関係あるメッセージのミステリーと
合わせて、冒頭からゆっくり。。じわじわと。。描かれていく。
とにかく兄と弟は仲が良く、父親がそれを優しく見守っている。
小さな頃から芸術センスに優れたカッコいい弟。当然モテる。
しかしとにかく、女に興味がない。それはなぜなのか。
半ば嫉妬心を煽られる兄でありつつ、大人しい加瀬亮が上手い。
やがて真相が明らかになると…いた堪れない気持ちになる。
もしも自分がこの弟だったら。そしてこの父親だったなら。
小日向文世が笑顔を見せるほど、切なさが増して辛くなる。
「俺たちは最強の家族だ。」の裏に、こんな辛い事実があり、
でもそれを(決して忘れてはいないが)不幸だと決めつけず、
共に支え合って生きてきた、ささやかな一家族だったのだ。
亡き母も、彼らをとても可愛がっていた。
許せないのはいわゆる犯人。それ以上に世間の好奇の目。
なぜ被害者家族があんな扱いをされなければならないのか。
本当にこの世から重力が無くなってしまえば、
彼らをその錘から解放してやれるのかもしれないと思える。
後半は心理戦で、それぞれの思いと事件の真相が交差する。
弟をつけ回していたストーカー少女(しかし彼女の存在は大きい)
の告白で、兄は弟の苦しみを知り、同時に、自分の弱さと
向き合うことになる。とにかく加瀬亮の静かな演技が秀逸!!
いかに重苦しい現実と向き合うことになっても、家族がいて、
健やかな環境があれば、自分が自分であることの認識を得て、
前を向いて生きていくことだってできる。遺伝子という繋がりを
それ以上の絆に変化させる力が、この家族にはあったのだから。
ラストは…必ずしも由とはいえないが、なぜかスッキリとする。
(辛い話を陽気に話せるお人柄で、聞く方は楽になれるもの。)