「ハリウッド大作なんかくそくらえ」僕らのミライへ逆回転 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)
ハリウッド大作なんかくそくらえ
予告編を観た限りは、緩いコメディーを想像していた。実際とても緩いのだけど、それ以上に嬉しかったのは、これは偉大なジャズピアニスト“ファッツ・ウォーラー”を讃える物語だったからだ。
そうとはつゆ知らず観ていたから、もう嬉しかったのなんの。
ダニー・グローバーが店長のレンタルビデオ店は、時代の流れに逆らったVHS専門の店。DVDは置いていない。
取り壊されてもおかしく無いが、「ファッツの生家だ!」が自慢。
この街の宝物だと思っている。
この映画で重要なキーワードとなっている《ファッツ・ウォーラー》とは一体何者か?
私が初めてその存在を知ったのは、黒人専用映画の『ミニー・ザ・ムーチャー』とゆう映画だった。
そこに映ったガマガエルそっくりな太った男が、黒人の若い女性に囲まれてピアノを弾いていた。
「浮気はやめた」と、「ハニー・サックル・ローズ」の2曲を、楽しそうに演奏していた。
その底抜けな明るさには一瞬で虜になってしまい、直ぐにCDを何枚も買い込んだ程。
彼を題材にしたブロードウェイの舞台『AiN'T MiSBEHAViN'』が来日講演をした時も少ないこずかいをかき集めて舞台を観に行った。
楽しかった〜。
でもいつしか時代は過ぎて彼のCDもそれほど聞かなくなってしまったが…。
そんな折に彼の事が突然映画になるなんて。しかも監督はフランス人じゃないか。
「ハリウッドの大作なんか見たく無いんだ!」
劇中にそんな様なセリフがある。
ファッツ・ウォーラーの事を知らなくても、この映画に込められたみんなで作る楽しさや、優しい気持ちは多くの人に届くのじゃないかな。
バカバカしい『ゴースト・バスターズ』リメイクのくだりりや、ダニー・グローバーがほんの少しながら“モーガン・フリーマン”になりきったりする楽しさ、明るさはファッツ・ウォーラーの最高の笑顔に通じるし、昔のキャプラ作品に通じるものもありました。
この楽しさが映画を観た全ての人の心に是非とも届いて欲しい。
無い物ねだりをしてしまうと。個人的にはもう少し弾ける笑い。
例えばシガニー・ウィーバーが『エイリアン』のビデオを手にしたり。
ミア・ファーローが『ローズマリーの赤ちゃん』を観たがったり、ウディ・アレンの作品をこき下ろしたり。
ダニー・グローバーが『リーサリー・ウエポン』シリーズを…と(笑)
そんな笑いの部分があれば、もっと最高だったのですがね。
(2008年10月14日シネマライズ UP theater)