劇場公開日 2009年2月7日

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「「当たり前さ」に深い意味があった秀作」ベンジャミン・バトン 数奇な人生 jack0001さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「当たり前さ」に深い意味があった秀作

2009年2月6日

単純

幸せ

人は泣きながら生まれてくる・・・大凡の場合そうである。
では、老いた姿で生まれてくることは?・・・人の歴史に於いて一度もそのような事例はないだろう。
なので、普通の感性でそんなことなど思いつきもしない。
面白いことに、そこに着想を得て短編小説を書きおろした作家が唯一存在した。
それはF・スコット・フィッツジェラルド;Francis Scott Key Fitzgerald、ヘミンウェイとも双璧をなすアメリカ文学界の巨匠だ。
第一次大戦後の弊害(大恐慌も含み)により、青春期を嫌がおうにも国家社会へと費やされた彼ら。
失われた世代;Lost Generationと称され、ブルジョアジーに色取られた旧世代への憤りともいえる作品が目立つ。
どこか諦めと皮肉めいた内容、それを熱のこもった文体で綴るあたりが特徴だ(すべてがそうとは限らないが・・・)
そんな感受性高き作家陣の中にフィッツジェラルドも含まれた。
代表作「グレート・ギャッツビー」以来、奇抜な着想による隠れた逸品の映画化である。

「80歳の容姿で誕生し、歳をとる毎に若返る」というベンジャミンの人生を人気俳優のブラッド・ピット;Brad Pittが演じている。
特殊メイクを施し、老齢期から青年期あたりの風体の演出は興味深く見れる(さすがに幼少期は無理なので、その辺は子役だったりするが)
カッコいいブラピな場面も結局多いが、一貫して落ち着き払ったような演技に評価を称えたい。
実に淡々とした性格派な一面をみせてくれている。
「90年代のジェームス・ディーン」とも称されたミズーリ大学出身の彼も中年層の一員。
「ファイトクラブ」や「トロイ」などで見せたアクションや派手さとは違って、表情や何気ない動きで演じ切っている。
ケイト・ブランシェット;Cate Blanchettの、脇を支えるような助演振りも美しくしなやかだ。
彼女も年代ごとに容姿を変化させ、その成り切り振りは頷ける。

この主人公は有りえない奇抜な運命の下に生きた設定ではあるが、気負いを感じさせず起伏の激しさも無い。
むしろ当たり前な人として当り前な日々を全うしただけである。
まるで「フォレスト・ガンプ」を彷彿させるような生き様だ。
出会い、別れ、愛情や悲しみ・・・etc.人生のダイナミズムに潜む機微そのものは時も場所も関係なく一律なもの。
確かに自ら選べない境遇の下に強いられたシーンも窺えるが、本質的には大げさなことなど何一つ訴えてない。
ただ誠実に一人の主人公があらゆる事象を受け入れている。
その人生を2時間47分の物語で完結させている。

誠実な流れ・・・多分今の映画界では再検討されている最中なのかもしれない。
人間ドラマの主軸そのものを改めて謳っている。
シリアス路線の印象が深いデヴィッド・フィンチャー監督が新たに踏み出す側面として見ごたえもある。
昨今のハリウッド映画と言いつつ良い意味で「らしくない魅力」だ。
少し年代が遡って「シネマ」とか「銀幕」などと称された頃の名画リメイクといった趣にも近い。

生まれ逝く・・・一言で括るには、あまりに強引ではある。
でもこれが揺るぎない最大のテーマだ!
如何にしてドラマティックに生きるか?ではなく、如何にして当り前に生きるか?
むしろそのほうが意義ある生き方なのかもしれないと改心させられる。

過去や未来という概念で比べるのではなく、「今」という気づきが大事だ。
日々一つ一つの刻みは、本当に重みと深みに満ちている。

訪れる事象に対して、手を抜いたり逃げたりすることは、実に損益大きい行為なのだろう。
真っ当に人生と向き合わなければ・・・と思わせる。

jack0001